KPMG ジャパンと考える、スポーツが社会に創出する価値 #1 「サッカークラブにとって、社会貢献って必要なんですか?」

KPMG ジャパンと考える、スポーツが社会に創出する価値 #1 「サッカークラブにとって、社会貢献って必要なんですか?」

2021年5月、パートナーシップを締結した KPMG ジャパンとクリアソン新宿。その際のリリースでは「KPMGジャパンの専門的な知見を活かし、クリアソン新宿が目指す『新宿区に対する社会的価値』の可視化・定量化を行う」という構想も発表されました。

今回は、プロジェクトに先立って「KPMG ジャパンと考える、スポーツが社会に創出する価値」と題し、KPMG ジャパンの 土屋光輝さんにインタビューを実施。クリアソン新宿 キャプテンの井筒が「そもそも社会貢献とはなにか?」「サッカークラブになぜ必要なのか?」といった疑問をぶつけました。

 

子どもたちへの運動機会の提供を目的に開催した「しんじゅくこどもまつり」の様子(#19 大谷真史)


井筒:
今年5月、KPMGジャパンとクリアソン新宿がパートナシップを締結、共同プロジェクトの構想も発表されました。このプロジェクトでは、クリアソン新宿というサッカークラブが社会にもたらす価値を可視化することを目的にしています。

そこで、今回は、社会貢献とは何か?サッカークラブは社会貢献をしないといけないのか?というテーマで、お話をさせていただきます。改めてですが、今、なぜ「社会貢献」が重要なのでしょうか?

 

土屋さん:
環境破壊、気候変動、人権意識の高まりなど、世界各地で目を背けることのできない現状があります。そのような中で、国連はSDGs*1を掲げ、国や企業に対して目標達成に向けたアクションを求めています。

現代は、ただ自分たちの利益を考えるだけでは、経済活動を続けていくことが難しくなりました。そうした現実は新型コロナウイルスの影響もあり、さらに強く突きつけられています。このような不確実性の高い世の中では、企業には、社会課題をどう解決していくのかも含めて明確なビジョンを持ち、それを語ることが求められています。

*1 SDGs:Sustainable Development Goalsとは、持続可能な開発目標。「2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された『持続可能な開発のための2030アジェンダ』に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成」(外務省:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html より抜粋)

我々は多くの企業に対して監査や税務、アドバイザリー業務を提供していますが、投資家や株主の人たちは、こうした企業の取り組みに注目しており、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素も考慮した投資(ESG投資)が急速に広がっています。

 

井筒:
これまでは、企業の社会貢献と言うと、例えば巨大な自動車会社などが、環境に負荷をかけている分だけ植林をして “プラマイゼロ” にする。そんなイメージでした。

 

土屋さん:
最近はCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)という言葉も、ほとんど使われなくなってきました。これは、昨年3月に日本政策投資銀行から公表された「スポーツの価値算定モデル調査」レポートからの抜粋ですが、社会全体も同じ流れにあります [図1] 。

[図1] (株式会社日本政策投資銀行:「スポーツの価値算定モデル調査~地域社会の持続可能な成長をもたらす、スポーツチームの価値の可視化~」https://www.dbj.jp/topics/investigate/2019/html/20200302_201005.html より抜粋 )

以前は、企業の本業(ビジネス)と社会貢献は別物とされていましたが、これが徐々に重なり合うようになり、現在は既に一番右になっているのかなと。企業の本業(ビジネス)を行うこと自体が社会貢献にならないとサスティナブル(持続可能)な企業とはみられず投資家や株主からそっぽを向かれてしまうようになっています。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)*2という考え方も出てきましたが、例えば、ただ単に「再生紙を使っている」とか「廃プラスチックで作られている」とかだけではなく、自分たちのビジネスモデルがどのような原材料を使って、どのような物流を経て仕入れられて、どう製造され、どう買ってもらって、どう捨てられるのかを理解し、アクションを起こしていくことが求められています。

*2 大量生産・大量消費・大量廃棄の一方通行の経済を線形経済としたときに、あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、付加価値の最大化を図る経済を、循環型経済と呼ぶ。(【参考】経済産業省:「循環経済ビジョン2020」https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200522004/20200522004-1.pdf)

 

井筒:
スポーツという言葉が出ましたが、スポーツクラブと社会貢献の関係性について、教えてください。

 

土屋さん:
サッカークラブも「興業だけやっていればいい」というわけではないことが、徐々に理解されてきました。Jリーグの「シャレン!」*3 の活動などはまさにそうです。全国各地にあるJリーグクラブを地域・社会に上手く使ってもらうことで、利益を求める「競争」ではなく、地域における様々な組織を巻き込んで地域課題を解決する「共創」を生み出す動きです。

*3 社会課題や共通のテーマ ( 教育、ダイバーシティ、まちづくり、健康、世代間交流など ) に、地域の人・企業や団体(営利・非営利問わず)・自治体・学校などとJリーグ・Jクラブが連携して、取り組む活動(Jリーグ・シャレン!:https://www.jleague.jp/sharen/ より抜粋)

スポーツクラブには、社会貢献と相性の良い三つの特性があります。一つ目は、「ハブ機能」です。スポーツクラブの多面的な力を生かして、地域を軸にして、様々な人々を繋ぐことができます。

二つ目は、「エンターテイメント性」です。社会貢献と言うと、どうしてもゴミ拾いなど、語弊を恐れず言うと、地味で、やらされることというイメージもあります。しかし、そこにスポーツクラブが関わると、スポーツの持つ楽しいイメージによってネガティブな雰囲気を変えることができます。

三つ目は、「情報発信力」です。スポーツによる広告露出効果という観点はもちろん、スポーツは人々の気持ちに強い影響を及ぼし、行動変容を起こす力もあります。

こうした観点から、スポーツクラブは、社会貢献活動において、街・地域を引っ張る存在になれるのではないかと思います。クリアソン新宿は、こうした活動に力を入れ、ただのサッカークラブではないという点で、今後も高く評価されていくのではないでしょうか。

クリアソンが運営協力をする、5カ国の子どもを集めての「新宿グローバルカップ」。国籍の垣根を超え、選手も一緒になりサッカーを楽しんだ(#14 江幡 駿)

 

井筒:
ありがとうございます。しかし「ビッグクラブになってからでもいいのではないか?」と思ったりもします。今の我々では力不足を実感しますし、何より新興のクラブはそこまで手が回らない場合もあります。

土屋さん:
先ほど挙げた三つで言えば、「エンターテインメント性」、「情報発信力」は、J1のクラブの方が高いと思います。一方で、まだ規模が大きくない組織だからこそ、「ハブ機能」は、クリアソン新宿の方が機能しやすいかもしれません。どうしても、ビッグクラブになると、関わるためにコストがかかったり、精神的な距離感も遠くなったりします。その点、クリアソン新宿は身近で近づきやすい。フットワークの軽さもあります。それぞれに良し悪しはありますが、小さなクラブにしかできないこともあります。

また、スポーツクラブは、様々な方々に応援・支援・協力してもらう必要がありますが、ステークホルダーは多岐にわたるため、競技軸だけで、ファンやパートナーを増やしていくのは難しいので、ファンやパートナーを増やしていくためにも、こうした活動は必要ではないかと思います。

 

#2 に続く…

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