優れたGKを育てるために、アカデミーが担う役割とは? 岩舘直 × 桐畑和繁 × 神田義輝 対談(文=土屋秋喜)

優れたGKを育てるために、アカデミーが担う役割とは? 岩舘直 × 桐畑和繁 × 神田義輝 対談(文=土屋秋喜)

昨今、フィールドの上で、ゴールキーパーの占める役割は大きくなる一方だ。そんな中で U-15とU-18を立ち上げたクリアソン新宿のアカデミーも、GKの育成にも力を入れている。

優れたGKとは何か、育成に必要な環境、クリアソン新宿のアカデミーの存在意義まで。2020年からクリアソン新宿のゴールマウスを守り続ける岩舘直、現役を引退して今年からGKコーチとなった柏レイソルユース育ちの桐畑和繁、アカデミーダイレクターの神田義輝とともに考えた。

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岩舘直(いわだて・なお)
Criacao Shinjuku トップチーム GK。1988年8月17日生まれ。神奈川県出身。神奈川県立旭高校卒業後に、当時JFLに所属していたアルテ高崎に加入。水戸ホーリーホックを経て、2014年からは浦和レッズに6シーズン在籍した。2020年にクリアソン新宿に活動の場を移し、関東リーグ優勝、JFL昇格などに大きく貢献した。

桐畑 和繁(きりはた・かずしげ)
Criacao Shinjukuトップチーム GKコーチ。1987年6月30日生まれ。山梨県出身。柏レイソルのアカデミーからトップチームに昇格。2007年にはU-20日本代表にも選出された。柏レイソルでは菅野孝憲(北海道コンサドーレ札幌)や中村航輔(ポルティモネンセSC・ポルトガル)らとともにプレーし、15シーズン在籍した。その後FC岐阜に移籍し現役を引退。2023年よりクリアソン新宿のGKコーチに就任した。

神田 義輝(かんだ・よしてる)
Criacao Shinjuku アカデミーダイレクター。1979年9月7日生まれ。埼玉県出身。大学時代には早稲田大ア式蹴球部(サッカー部)に所属。卒業後には株式会社リクルートに入社し、人材育成や採用を担当。その後はJリーグで選手に向けたキャリア教育事業に従事。株式会社Criacaoに入社し、アカデミーの立ち上げなどを行った。JFA公認B級コーチ、GKコーチライセンスレベル1を保持。水戸ホーリーホック元取締役。

GKに必要な心・技・体

―まずは「優れたゴールキーパー」について、皆さんはどのように考えていますか?

桐畑:まずは「上手くなりたい」「成長したい」という「心」ですね。特に育成年代では分かりやすく周りの選手と自分を比較できるので、その中で「負けたくない」という気持ちが大事だと思います。そこに心・技・体で言えば「技」がついてくると思います。

岩舘:「心」と言えば、自分は西川さん(西川周作・浦和レッズ)の姿が浮かびます。ゴールを守ることはもちろん、攻撃参加にもアグレッシブ。決して目立とうとするわけではなく、GKがゲームの中心にいるような、そんなゴールキーパーなんです。

桐畑:僕が接した選手で言えば、特に南さん(南雄太・大宮アルディージャ)や菅野さん(菅野孝憲・北海道コンサドーレ札幌)という、Jリーグで600試合出てる2人。

菅野さんは身長が高くないんですが、食事にこだわったり、自主練をしたり、やっぱり基礎を頑張り抜けた人だけがそのステージに行けるんだなと思いました。

さらにそれを年上の南さんが真似をして……。その素直さや、上手くなりたいという気持ちにも感動しました。

神田:菅野さんを見ていると夢がありますよね。GKは、心・技・体でいえば「体」でジャッジされがちじゃないですか。でも、身長だけで考えると、GKの本質が伝わらなくなってしまう。「俺でかくないから、GKじゃこの先に進めない」って小学生くらいで思ってしまうのはすごくもったいない。

桐畑:僕ら世代の横浜F・マリノスはみんな180センチ前後。「動けるGK」がスタイルとしてありました。試合に出場しているGKがその像を作り、アカデミーの選手たちもがそうなりたいって思うようになった。

岩舘:僕も西川さんも183センチくらいで、今の時代だと大きい方ではないです。榎本哲也さん(元横浜F・マリノス、浦和レッズ)もそのくらいで、「ゴールを守るのに190センチは必要ない」というのを体現していましたね。

神田:「技」も「体」も大事だけど、やっぱりまず「心」。僕が思うのは、GKは最後の砦なので責任感、最後尾から全体を見渡すポジションなので俯瞰して見れるインテリジェンス、それを踏まえたコーチングができるリーダーシップが必要。あとはGKのトレーニングはしんどいことも多く怖い局面もあるので、それを継続できる克己心もですね。

その上で、技は努力の賜物なので細かいところに気づいてこだわることができるか。体はトップオブトップにいくなら必要ですけど「心」と「技」でカバーできる部分もたくさんあると思います。

基準を示せるコーチに出会えるか

――優れたGKになるための要素を育むためには、どんな環境が必要だと思いますか?

桐畑:僕の経験で良かったのは「この人の言っていることを体現できればいい選手になれる」という指針があったことです。育成年代でマスターしておくべきことを教えてくれるコーチがいるのは、ユースのいいところだったと思います。

岩舘:逆に、僕はプロになるまでGKコーチについてもらったことがなく、自分で自分に何が足りないかを考えて、練習メニューを作って、試して、を繰り返していました。それが習慣になって、自分を客観視できるようになったのはよかったと思います。

一方で、やっぱり質の高いGKコーチがいるのは大事です。Jリーグに入って、フィジカルは先に順応できたんですが、技術の部分では時間がかかり苦しみました。

神田: GKは他のポジションに比べると、誰がやってもこうでなくてはいけないという型があって、それを試合からの逆算でロジカルに説明することができるコーチが必要ですね。

岩舘:ただ、GKはコーチによって言うことが違うということもよくあります。最後はその指導者が信頼できる人なのかが大事だと思います。

桐畑:レイソルでは、佐々木雅士、松本健太、中村(航輔)や僕もそうで、ユースで学んだ技術が合格点に達しないとトップチームにはいけない。レイソルの中で基準が統一されていますね。

神田:クリアソンにも、自分以外にもGKを教えられる人はいるので、コーチの間で意思統一できているかは大切だと思います。

守・破・離のフレームワークで言えば、この「守」がクリアできれば「破」は自分のスピードや身長に合わせて型をアレンジしていくこと、「離」はそのアレンジに合わせてトレーニングを構築していくことです。

アカデミーで培うべきは「守」と「破」の入口くらいで、それには選手がどこを目指しているのかをコーチが把握して刺激することが必要だと思います。

クリアソンにはトップチームがあって、選手の基準や欲求を上げる、お手本になる選手もすぐ近くにいます。自分がどこまでいけそうなのか、どこまでいきたいのかを確かめることができるのも、ユースの価値です。

トップチームと連携した環境づくり

――クリアソン新宿のU-15、U-18では、どんな育成をしていきたいですか?

神田:心・技・体の部分で言えば特に重要視しているのが「心」。「上手くなりたい」とか「GKが好きだ」と思えるように接していくのが我々の役割で、そこが揃えば「技」は自然とついてくると思います。

クリアソンの中学生年代はまだ T4という東京都で一番下のカテゴリーですけど、東京都のGKトレセンに一人選ばれました。

今後はキリ(桐畑)が直接教えたり、ダテちゃん(岩舘)が「GKとは」というのを話したり、そういった形でトップチームとも連携していきたいです。

岩舘:新宿の地域のGKの育成環境は自分の過去と重なる部分があって、指導者がいない状態があると思います。クリアソンは新宿のGKをちゃんとやりたい子たちの受け皿になるべきです。

クリアソンのGKの型ができて、新宿の他のGKの子たちが真似するような環境が構築でいたらいいなと思います。

桐畑:育成年代では試合に出るって超大事です。今、ユースにGKがいなくて「ユースのGK第1号」になって、来年から試合に出れる。試合に出て、ロジックがしっかりした指導者と話してトライアンドエラーができる環境はすごくいいと思います。

岩舘:あとはプロになるならないに関係なく、クリアソンには学びがあります。先の人生でも必ず役に立つものが手に入るような環境なのは間違いないと思います。

桐畑:トップチームの選手と触れ合えば、みんなが思っているサッカー選手よりもずっとエネルギッシュで立派な人だと感じるはず。僕も1年クリアソンにいてすごくそこは感じていますし、ユースの時からそんな人たちがいる環境に飛び込めるのはすごく素敵なことだと思います。興味がある人は、ぜひ一緒にやりましょう!

Criacao Shinjuku アカデミーでは、随時練習参加を受け付けています。
U-18の練習参加
U-15の練習参加

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