スポーツと違う世界の間で繋ぐ Chapter 8 岡本達也

2013年より、株式会社Criacaoは新宿に拠点を構え、事業を進めてきました。ここ数年は社員やパートナー、インターンなど共に歩みを進める仲間が急増するとともにクラブ事業部、キャリア事業部、アスリート事業部という3つの柱で仕事の幅も広がり、それぞれの姿が見えにくくなってきました。Criacaoの取り組みを支えて頂いている方々に、もっとCriacaoのことを知ってもらいたい。そんな時、まだ伝えていない姿があることに気づきました。それは、それぞれの人間がどのように歩み、どんな思いを抱きながら、何を実現しようとしているのかです。豊かさを体現する個々の姿を、この“Criacao Index”でお届け致します。


Criacao Index ~豊かさの体現者たち~

Chapter 8 岡本達也

プロサッカー選手を引退した直後、黎明期のクリアソンを通じて出会った人たちから、ビジネスの面白さを強く感じた岡本は、自身の経験や人脈を生かしながら、Criacao Athlete Collegeやアスリート研修などの事業を立ち上げました。選手を続けながら、体育会出身学生の就活支援などを通じて、スポーツと違う世界の間に立って繋ぐことを楽しみながら続けています。

――現在の担当を教えてください

2015年にプロサッカー選手を引退して、最初はインターンで入り、社員になってからも、やることが大きく変わったわけではないです。当時は4人しかいなかったので、全部やりました。最初は、今のキャリア事業の走りみたいなことをしました。大学生を相手に、部活での悩みや、リーダーからの相談を受けたり、あと一緒に部活の練習に参加したりもしていました。ブラインドサッカー研修では、営業や講師をしていました。当時、開発・販売していたプロテインの紹介や、フットサル事業の中で選手としての技術を教えたりもしていました。

アスリートの世界は結構狭くて、価値観も、考え方も似通っている人たちがたくさんいる中から、ビジネスの世界に入った時に自分の世界がすごく広がって面白かったし、いろいろなことを学べました。知識も、繋がりも、考え方も、現役選手たちに還元したいなと思って、ビジネス界の面白い人たちとアスリートの面白い人たちで、ディスカッションみたいなことを企画しました。クリアソン・トロッカ(ポルトガル語で交換するという意味)という形で初めてやった時に「めっちゃ、面白いね」と両方から言われて、ビジネスもスポーツも本質的に一緒だし、突き詰めている人たちの話はお互いにすごく刺激になるとなって、アスリートカレッジはそこから始まっているんです。一回目に来てくれたのは、最近入社した小林祐三や、アスリート研修を一緒にしている石川直宏さん(元サッカー日本代表、FC東京クラブコミュニケーター)、ビジネスパーソンの方にも林田敏之さん(現ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役副社長 COO)や、武田雅子さん(現カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO 人事総務本部長)など今でもつながっている方々がいました。

アスリートカレッジは、30回目くらいまで、会の設計、ファシリテート、集客までほぼ一人で全部やっていた感じです。そこから、当時NTTデータにいた林田さんが、社員研修として初めて依頼してくれて、すごく評判が良くて、事業として始まったのがアスリート研修になります。

僕の特性として、何かを生み出す時には何かと何かをつなげていくことが多いと思っていて、スポーツ界と違う世界の間に自分が立って繋げていくことで新しい価値が生まれたりとか、そういうのを頑張らなくても生んでいく人という感覚は少しあるかもしれないです。それが好きだし、楽しいです。

今は、キャリア事業が6、アスリート事業が1、クラブ事業は選手がメインで3くらいの割合です。キャリアアドバイザーとして特殊だと思うんですが、競技の悩みや、プロになるか企業に就職するかで迷っている、プロになりたいと思っている、そういう相談も受けます。高卒と大卒で2回プロになって、就職も経験していて、今ビジネスの世界に生きているキャリアは、学生からは全部を先に経験している人に見えるのかもしれません。キャリア相談を受けた学生を相手に試合をしたこともあります。「頑張れって言っていたのに、岡本さん、そんなに頑張れてないな」とか思われたら、地獄じゃないですか。自分の在り方をすごく問われます。

――思い出深い仕事の場面を教えて下さい

(Jクラブの)ジュビロ磐田とコラボして、浜松信用金庫と磐田信用金庫の合併の融和の研修をしたことがありました。どちらもジュビロのスポンサーで、静岡は僕の地元でもあるし、ジュビロにいたこともあって、日本マンパワーさんから依頼があった時、自分の繋がりでジュビロに打診して、その中で関係性の深かった山田大記選手に自分の思いを伝えたらOKしてくれて、アスリート研修とブラインドサッカー研修を組み合わせた1日の研修にしました。

違う文化の人たちが一つのチームに入って、一緒に成果を出していくという課題だったので、山田選手からチームをつくる時にどんなことを大切にしているかを引き出したり、ドイツでのプレー経験から違う文化の組織に入っていった時に上手くいったことや上手くいかなかったことなどを話してもらった後、参加者に議論してもらいました。ブラインドサッカー研修はチームをつくっていく上で大事なことがたくさん詰まっているので、そこで自分たちで体験してもらい、最後に、明日からどうしますか、というところに落とし込んだ感じでした。

僕が選手として培ってきた経験、人脈、繋がりと、クリアソンに入ってやってきた研修などが混ざり合って、スポーツで地元の社会課題にアプローチできた、一つの形になったと感じた瞬間でした。

◆受発注の関係でいたくない

――大変だった仕事や自分で新しく開拓した仕事はどんなことですか?

入社した頃、自分のキャパが全然ないのに、全部の事業に携わっていた時は、とても楽しかったんですけど、すごく大変だった気がします。プロテインの営業では、戦略を立ててやるというより、とりあえずいろいろ人に連絡を取って足を運ぶ。それをしながら、学生との面談もして、自分のサッカーの練習もやるような、考える暇がなく、手と足が動いていない時がなかったように思います。今は、それぞれの社員の役割が明確になってきて、することも仕組みも、随分整理されてきたので、全然変わったなと思います。

開拓した仕事は、アスリート研修やアスリートカレッジは自分が種をまいて、という感じはありますね。キャリア事業では、全国各地の学生、部活との繋がりはかなりつくれました。人から繋いでもらうことが一番多かったですね。自分の思いを伝えて、なぜ、何のためにこういう活動をしているかというのをちゃんと伝えて、共感してもらって仲間になっているような。サッカーがメインですけど、それ以外でも素敵な思いを持ったアスリートと、この会社の繋がりは生み出せたような気がします。

――お客様から教わった大事なことは何ですか?

相手を理解することの大切さ、相手を理解して好きになることの大切さです。いい仕事ができる時って自分がこうしたいという一方通行だとうまくいかなくて、相手の会社やその人自身の想いや考え方、困っている事、パーソナリティーまでを理解していく中で、その会社や人の理解が深まっていって、好きになって、ファンになっていくと、いつの間にか大きな原動力になっていて、いい仕事に繋がっている気がしています。

いい仕事ができると相手も自分のことを好きになってくれて、さらに一緒にいい仕事ができますよね。最初は片思いだったとして、どれだけ自分が相手の素敵なところを見つけられるか、相手のことを好きになれるかがとても大事だなと教えてもらいましたし、仕事という枠を越えていく感覚があって、とっても面白いです。

これは、日常生活やサッカーの中でも一緒だなと思っていて、出会うもの、人の良いところを探す、見つけられる人生っていいよな、豊かだよなと感じています。

――仕事でのマイルールは?

ルールと言うより、素でやっていると思うのですが、お客さん同士が、みんな仲良くなっていくんですよ。仕事だけ、その場限りではなくて繋がり続けられるのは、一番理想の形だなと思っています。

相手のことをすごく知りたいんです。仕事という枠組みだけの関係、受発注の関係でいたくない。岡本達也とその人という個の関係もすごく大事にしています。

企業の人と、仕事に関係のない話やプライベートな話もよくします。一緒にフットサルをしたこともあります。利益があるなしだけの関係はちょっと嫌だなという感覚は、ビジネスパーソンとしては甘いのかもしれませんけど。会社の目標に対して、その人がこんな思いを持っていて、それを自分たちが一緒に実現できたり解決できたりすると、×2とか×3で嬉しいですよね。そういう関係でいたいなと思っています。

◆ひとの人生にプラスを

――Criacao入社前にしていた仕事は?

高卒でプロになって、今、それを否定しようとは思わないんですけど、有名になりたかったし、お金を稼ぎたかったし自分のために、というのが強かったんです。一回クビになっているので、大学を選ぶ時も「もう一回、やっぱりJリーグに挑戦したい」という思いはありました。

順天堂大学に入った1年目(2007年)に天皇杯で勝ち上がって、前年まで在籍していたジュビロ磐田と試合をしたんですよね。住んでいた寮に「ジュビロ磐田戦を見ました。自分も夢があった、目標があったけど、正直諦めていました。でも、その試合を見てもう一回頑張ってみようと思ったので、本気でやってみます」みたいな手紙がたくさん来ました。サッカーを本気で頑張ることが誰かのためになっているんだ、自分が頑張ることでいろいろな人に影響を与えられるんだというのを実感できました。

大学を卒業して水戸ホーリーホックに入った時には、うまくなりたいし、結果も出したいけれど、いろいろな人たちに何かを伝えられるようになったらいいな、と思っていました。だから、自分でブログを書いたり、茨城大学や地元の小学校、中学校で講演をしたりもしました。教員免許を持っていたんですが、勉強を教えたいとか、学校というよりは、ひとの人生にプラスをもたらせることをしたかったんだろうなと思っていて、それは今、学生に向き合うキャリアアドバイザーの立場で結構できています。

 

――Criacaoを知ったきっかけと入社の経緯を教えてください

2015年に引退して、この何者でもない自分が本当に納得のいく次の進路を選びたいなと思ったので、まずは知ることから始めました。東京に来て、つてをたどっていろいろな人に会いまくって、教員をやりたいと思うのか、やっぱりサッカーの世界に戻りたいと思うのか、全然違う道に行きたいと思うのか、何を自分が感じるのか。Facebookに、今こういう思いで、フラットにいろいろなことを考えたいと書いた時に、大学時代に繋がりができた知人から「どうしても会わせたい人がいるから」とメッセージをもらったんですよ。その人は(社長の)丸山にOB訪問をしたことがあったので、紹介してくれました。

1月に古いオフィスに行って、剣持と、ジョインしてすぐの竹田と、ざっくばらんに話して、自分のサッカー選手としての話や考え方を聞いてくれました。クリアソンがどんなことをしているのかは全然知らなかったけれども、生き生きしているのだけは伝わってきて、サラリーマンはやりたくない仕事をお金のためにやらされているイメージを打ち砕いてくれた瞬間でしたね。本当に自分たちが成し遂げたいことに向かって、思いを持って楽しそうにやっているのを見て「こういう働き方をしたいな」と思ったんですよ。クリアソンに入るなんて一切思わなかったですけど、「ビジネスの世界っていいな。そこでチャレンジしたいな」と、心の中でその日には決まっていました。それくらい衝撃的な出会いでした。

ビジネスの世界でチャレンジしたいと思いつつも、どうしたらいいかわからないということを、丸山に引き続き相談していたら、「うちでインターンをしながら、就活したら」と提案してくれて、静岡でラーメン屋のアルバイトをしていたのを整理して、2カ月弱ほどして始めました。

インターンの時に大きかったのは、かばんは全然持たない“かばん持ち”をして、3人の中の誰かとずっと一緒にいて、企業の人事の方や経営者に会っていたことです。スポーツとビジネスで共通すること、組織やリーダーの話を聞いて、そういう考え方があるんだとか、自分が思ってもみない角度から意見をもらえたりするのが、とても面白かったです。あと、考えていることのスケールが大きいなと思いました。僕らはサッカー選手で、自分どうなっていくかというレベル。経営者は、自分の会社がどうこうだけではなくて、業界や社会が、という目線で考えていて、視座が全然違うなと感じたんですよ。

スポーツと関係のない会社で働くのもいいなとは思っていたものの、クリアソンだと新たに学ぶこともたくさんありながら、自分が今までやってきたことやリソースを活かせる。クリアソンのやろうとしていること、スポーツと他の世界を繋ぐなどは、自分が体現できるんじゃないかとも思いました。それで、入社することにしました。

 

◆可能性を広げ続ける体現者に

――あなたの考えるスポーツの価値を教えて下さい

試合運営を手伝って頂くなど繋がりも深い、新宿高校サッカー部の練習に参加した時に改めて感じたことが、スポーツは年齢や世代、肩書きやこれまでの経験、国籍や宗教、いろいろなものを一瞬でフラットにしてしまう力があるということです。

僕は34歳の元Jリーガーでビジネスパーソンで、彼らは10代の学生。普段は交わることすらほとんどない上に、全くフラットな状態で何かをすることはなかなかないと言うか、難しいことだと思うんですけど、一緒にサッカーするとなると何もかもがフラットなんですよね。

誰もがフラットになれて、フラットになれるからこそ自然と繋がることができる。スポーツの価値で様々な障壁を越えて、様々なものや人が繋がっていける可能性を改めて感じました。

――Criacaoを通じてどんな豊かさを創造したいですか

豊かさを感じる瞬間は、可能性を感じられる瞬間だと思っています。例えば、大学生は、就職を選ぶか、プロを選ぶか、どちらかは捨てなければならない、と考えているけど、「どちらも自分は頑張れるんだ」と感じられることは、すごく豊かだと思うんですよ。アスリート研修をしていても、企業の方が「リーダーとしてやっていけるのか」「どうしたらうまくいくのか」と悩んでいたところで、スポーツの価値に触れて学んだ時に、「頑張れるかもしれない」「変えられるかもしれない」となった時に、その人も、僕らもすごく豊かになります。キャリア事業で学生と面談していても、「スポーツでやってきたことを活かして頑張って仕事をしていったら、活躍できるかもしれない」と思えると、すごく豊かさを感じられているように思います。でも、そういうものになかなか気付けないこともあるので、それをスポーツやクリアソンに触れることで感じてもらえるような豊かさを循環していけるといいなと思います。

具体的には、自分の可能性を広げ続ける、自分が体現者になるというのが一番だと思っています。34歳になったんですけど、選手としてもビジネスマンとしても「自分自身の力をもっと高めていきたい」、「自分の可能性を閉じたくない」という思いは強くあって、いろいろな取り組みを新しく始める中で、34歳の今が体も一番いい状態だと思っているんですよ。僕が3回目のJリーグにビジネスをバリバリしながら行った時に、これはとても豊かじゃないですか、人生が。スポーツ界にとっても、新しい形なんじゃないかなと思います。