前編では株式会社プロコミット・清水隆史さんにご自身の「キャリアと転機」について伺いました。後編では、清水さんが「これからのビジネスパーソンに不可欠」と語るリーダーシップについて伺います。
本当に「個の時代」なのだろうか?
(清水さん)新型コロナウイルスで在宅勤務が普及した。ここまでは、これまでやってきた仕事をオンライン化できるかが課題だった。それによって無駄な業務が減り、効率化された部分はまちがいなくある。今後もDXは必須。これは間違いない。
ただ、中期的に見ると、それだけで成果が上がり続けるのか疑問がある。これまで培ったコミュニケーション貯金を食いつぶしているだけという可能性もある。
―― 各社、コロナの状況によって「テレワーク」と「原則出社」とで右往左往する場面が見られました。働き方とコミュニケーションとの間で最適解を見つけるのは難しいですよね。
「個の時代」といわれて久しいですが、その言葉が一人歩きするのは危険だとさえ感じています。「個の時代」の意味を間違って捉えると、「孤立」ばかりが増える。そこに協調がなければ単なる孤立であると思っています。
――個の時代でも「協調」は不可欠ということですか?
たとえば、仕事を部品に分けて、それぞれの部品に人をあてはめていく。そして、それぞれにベストを尽くしてもらって出来上がった部品を組み合わせれば最高の成果が上がるはずなのに、なぜかうまくいかないということはよくありますよね?
――サッカーのディフェンスでも、足が速く反応速度が速く、身長が高くてヘディングが得意な選手を3人置いておけば強いかというと、それだけでは機能しません。マークすべき相手について、お互いが声をかけられるかなど「身体能力以外の要素」もがとても大事なんです。
声をかけられず一瞬マークが外れた時に、パスを通され失点につながったりします。
「コミュニケーションの質」が試合では致命的な差として現れることがサッカーでは頻繁にあるんです。
会社という“生き物”。
このおもしろきもの
――清水さんのビジネスに対する想いはどこから来るんですか?なんでしょうね。
・・・(しばし沈黙)
面白いから。ゲームとしても面白いですよね。ビジネスって。
サッカーが素晴らしいのと同じかもしれません。
――素晴らしいですよね。めちゃくちゃ難しいですが。
サッカーってあれだけ難しくて奥が深ければ、面白くもなるだろうなと思います。でも、ビジネスも結構いい線いってるぞと思うんですよね。会社はかなり興味深い「生き物」という感じがします。
いろんな変種がいたり。ポケモン好きな子供ってこれが進化するとコレになるんだよとか詳しいじゃないですか。僕、会社という生き物が好きなんですよね。
ビジネスモデルとかもそうですよね、「そんなのにお金払う人いる!?」っていうようなものもある。Airbnb のビジネスモデルも初めて聞いたら「いやぁ自分の部屋を人に貸すのも、借りるのも気持ち悪いでしょ」って思いますけど、これだけ普及するわけじゃないですか。
丸山さんたちのCriacao だってそうですよね。「世界一のサッカークラブを作りたいなぁ」と考える人たちは何千人もいると思いますが、大企業を辞めて本当に始める人が日本中に何人いるか。でも、それを実際に始めちゃうっていうクレイジーな人達がいるわけじゃないですか。丸山さんもスゴいですけど、それに乗っかってきた人達もすごいですよね。ほんと、ここまでよく伸びましたよねって話ですよ、今となってはね。これスゴいですよ!?
――そうですね、よく伸びましたよね(笑)僕は、自分が働いている会社を悪く言うのを聞くのがあまり好きではないんです。
「いやーあの会社はひどいですよ」といった話は山ほど聞きますが、その後、憎たらしいくらい成長して、理念が後付けされて、「素晴らしい会社だ」と言われるようになることはよくあります。
「アレは俺のおかげ」と言う人に欠けている視点
逆に、「あの会社が成長したのは俺のおかげ」という言う話もよく聞きますが、これも違和感を感じることが多いです。
僕も1社目で上場準備をやったから分かりますが、僕がやったのは「上場準備」なんです。「上場」そのものじゃない。この点は一度も勘違いをしたことはありません。
上場準備をやりました。すごく頑張りました。たぶん、それなりにうまくやりました。最高の経験になりました。でも、なぜそれができたか。会社が素晴らしかったからです。僕は「素晴らしい会社だという事実」をうまく伝えただけです。徹夜で仕事をしましたが(笑)。すごいリスペクトがありますよ、会社という生き物に対して。
――会社を生き物として見ると、その「核」って何なのでしょうか?
耳障りのいいことを言うと「理念」ということになるのでしょうが、実際は少し違う気がします。中にいる何人かの「意地」みたいなものでしょうか。
「◯◯で、世の中を幸せにする」とか言いながら途中から事業内容が変わる会社もあるじゃないですか。いまは「ピボット」という便利な言葉もありますし。そういう会社を、一貫性がなくてダメだとは思わない。むしろ「したたかだな」とすら思います。そういうキレイゴトではないところも、会社という生き物が好きな理由のひとつです。
自分の仕事について、5時間くらい語れるか?
――改めて、いま求められるのはどんな人材なのでしょうか?
単純ですが
考える、行動する、人を巻き込む
これに尽きると思うんですよね。
会社の中で「あのプロジェクト、俺がやったんだよね」と言う人は100人くらいるじゃないですか(笑)。
本当にやった人って、プロジェクトについて具体的に5時間くらい話せるんです。あの時、こんなピンチがあった。ヤバかった。こうやってひっくり返したというふうに。
それって小さなプロジェクトでもいいんですよ、若手なんて、まだ仕事でそんな華やかなストーリーはないですから。それでも、状況をどう受け止めて、どう考えて、どう行動したかを、自分の言葉で語れるかということだと思うのです。それが他社でも「再現可能」だと感じられれば、引く手あまたです。これは転職市場に限った話ではないはずです。
先程、「フォルダ」の話(前編参照)をした時に、「意味がないと感じましたか?」と丸山さんが質問されましたが、僕は「意味がないとは思わなかった。上のフォルダに登ればどういう解を導けるかと捉えた」と答えました。
どう受け止めるかは大事なことだと思います。すぐに「この仕事、意味ないな」と転職してしまう人には、「意味のある仕事」は降ってこないだろうなと思います。
リーダーシップの一歩目は
「こうすればいいのでは?」
――最後に、「リーダーシップ」とはどういう力でしょうか。
リーダーシップは偉い人が持つべきもの、「役職」に結びついたものとして考えられがちです。そうではなく、ひとりひとり役職がない頃から持ったほうがいい。「この仕事、俺が何とかしてやる」と思った瞬間から、その人はリーダーだといってよいのではないでしょうか。
――そのために、まずできることがあれば教えて下さい。
リーダーシップはリーダーだけのものではない。打ち合わせ一つ、そこでの話し方ひとつでも発揮できます。
たとえばいままで上司に「どうすればいいですか?」と聞いていたところを、「こうすればいいと思うのですが、どうですか?」という聞き方に変えることも小さなリーダーシップの発揮ではないでしょうか。自分の頭で考えてみなければ「こうすればいいと思う」が出てこないわけですから。
リーダーシップの一番の敵は「思考停止」です。自分で考えずに「どうすればいいですか?」と指示をあおぎ続けるとそうなってしまう。
そうならないために今日からできることがあります。普段みなさん仕事の際に「TODOリスト」とか書きますよね?その時、TODOと一緒に、「最終的に『全体が』どうなればいいのか」という目的や完成イメージを書くことです。
そうすると、たとえばこれまで漠然と出席していた会議でも、会議の結果何が起きれば成功なのか、「状態の定義」を明確にする癖がつく。それが第一歩ではないでしょうか。漫然とその時間を過ごさずに、自分なりのゴールを設定する。そうすれば自分の意見もでるはず。それは紛れもなくリーダーシップ発揮の第一歩です。
僕はリーダーの人たちが大好きです。リーダーは簡単ではないし、カッコよくはいかないから。失敗するし、批判もされるし。でもそんな葛藤を抱えながらも「何とかしてみせる」と、前に進んでいる人たちにしかわからないものがあるように思います。だからこそ、リーダーシップを発揮して何とかしようという人には強く共感しますし、一緒に前に転がっていきたいなと思っています。
<編集後記>
清水さんからお話を伺うと、いつも思うことは、シンプルで明快であるということ。
本で書かれているような美しい成功譚ではなく、泥くさい人間模様も経験し受け止め紡がれるお話は、何度聞いても飽きません。
“リーダーシップ=なんとかすること”
こうしたシンプルで力強いメッセージを始め、それを裏打ちする数多の現場での泥臭いご自身でのご経験と、経験だけに頼らない相手目線での課題解決力には、いつもたくさんの学びをいただいています。
人や組織の可能性を強く信じている清水さんだからこそ、働くことについての視点はとてもポジティブです。組織や働くことについても徹底的に因数分解され、分かりやすく言語化してくださることで、多くの未来のリーダーに刺さったのではないでしょうか。
こんなリーダーがいたら、組織は素敵になる、清水さんはまさにそう思える尊敬するリーダーであり、その清水さんの一端が少しでも皆様に伝わったのであれば、幸いです。清水さん、本当にいつもありがとうございます!!