私、丸山はずっと忸怩たる思いを抱えていました。やる気に満ちていた若手が、就職した大企業の中で上司に恵まれず、くすぶっている。学生時代は頼れるリーダーだった人材が、働くうちに小さくまとまってしまった。そんなケースを数多く見てきました。

「圧倒的にリーダーが足りていない」

いつしか、そんな危機感を抱くようになりました。どうすれば次世代のリーダーを育てられるのか。次世代のリーダーに求められる「資質」とは何か。会社を率いる立場である私が各業界を牽引するリーダー達と語り合いながら、これからのリーダーのあり方を模索していく企画です。

第1回 株式会社プロコミット 代表取締役社長 清水隆史さん


初回となる今回、まずお願いしたのが公私ともにお世話になっている株式会社プロコミットの清水隆史さんです。前後編でお届けする前編は「キャリアと転機」。入社1年目から企業までのキャリアストーリーと、それに関わる想いをお聞きしました。

※撮影時のみマスクを外しました

こんな会社。こんな人

「ベンチャーをメガベンチャーに」を合言葉に、将来的に会社の中核となる未来のリーダー人材を発掘、優れたベンチャー企業へとつなぐ会社を経営。

最近では、国が主導する「天才的な技術者」を発掘・育成する国家プロジェクト「未踏」にも参画している。将来的に会社の核になる人材「次世代リーダー」を見つけ出し、ポテンシャルを秘めたベンチャー企業へとつなぐ企業成長の請負人。また、SaaS型の採用サイト「iRec(アイレック)」を提供し、企業の採用ブランディング支援にも注力。

これまでにどんな仕事を?

ユニクロ、JINS、DeNA…この10年で急激に成長したベンチャーの裏には、ことごとくプロコミットの貢献がある。

今や売上2兆円規模のユニクロだが、プロコミットがパートナーになった頃は、まだ5000億円程度だった。ユニクロは自らを「既存のアパレル企業とは異なる存在」と位置づけ、さらなる成長のため、コンサルティングファームや金融、消費財のトップメーカーなど異種業界から最高峰の人材を求めた。その中でプロコミットは、業界を問わず活躍できる「ビジネスの地力」がある人材を見極め、彼らの新たな活躍の仕方を提案。現在はポテンシャルのある成長企業の良さを採用ブランドに高め、人材のポテンシャルと企業の未来像をつなぐことが、清水さん率いるプロコミットの真骨頂です。

TVCMから上場準備まで、できることはなんでもやった20代。

――あらためて、20代でどんな働き方をしていたかから聞かせて頂けませんか?

僕が新卒で入社したのは株式会社レッグスというセールスプロモーション(販売促進)などを行っている会社でした。今でこそ東証一部上場企業ですが当時は社員数30名ほど。その会社で、携帯電話メーカーなどのプロモーションのため、テレビCMから駅の交通広告、雑誌広告、WEB広告など、何でもやりました。

休日は休日で、「ビジネスのことをとにかく知りたい」という時期だったので、図書館にこもって仕事には直接関係のない「M&A」の本などを読んでいました。まるで受験生のようでした。

そんな僕の興味を汲み取ってくれたのか、25歳の時に会社がIPO(新規上場)するということになり、その準備責任者を任せてもらえたのです。その時ついた肩書が「経営企画室長」。丸山さんがいた伊藤忠では、考えられないんじゃないですか?

――25歳で「経営企画室長」ですか!? 伊藤忠だと考えられないですね(笑)

考えられないですよね。それはもうベンチャーの台所事情というやつで、これは僕がすごいわけではまったくなくて、
「ベンチャーってめちゃくちゃだな」

というのが正しい説明です(笑) 僕が上司の立場なら、とてもじゃないけど任せられないなって思います。その意味でも、レッグスは本当に素晴らしい経験をさせてくれた。素晴らしい会社でした。

 

「絶対負けたくない」大企業に対するコンプレックスがあった

――休日に勉強。なぜそこまで頑張れたんですか?

おそらくコンプレックスが原動力です。
今でこそベンチャーに入ったことを一切後悔していませんが、当時は「えらい選択しちゃったのかもしれない」と思った。
周りの友人は誰も知らない会社だし。当時の広告業界って電通を頂点としてものすごいヒエラルキーがあって、僕がいた当時は下請け的な厳しい仕事も多かった。

「なめられたくない、負けたくない」と思ったのでしょうね。

今となっては謝りたいですけれども、ある大手広告代理店の方に失礼を働いてしまったこともありました。
当時、その代理店が持っているテレビCM枠で自分たちが制作したCMを流してもらうという仕事がありました。僕が大切なクライアントから受注した仕事です。

当時は制作したCMを「D2」という規格のテープで納品するのが常識だったのですが、僕は別の規格のでっかいテープを持って行ってしまい、「これじゃ、入らないよ」と言われたのです。

それを聞いた僕は、ついカッとなり「なめやがって!」と思って「なんとか入れろ」ってことを言ってしまいました。

その代理店から仕事を受けていたわけではなくメーカーから直接受注していた仕事だったのでプライドもあったのでしょう。でも向こうからすれば「いやいや、なめてない、なめてない。物理的にテープが入らないんだ」って話ですよね(笑)今から思えばまさにコンプレックスの裏返しですし、プロ失格の失礼きわまりないことをしたなと思っています。

2年間かけてIPO(新規上場)を成功させた。取引先にも恵まれた。すべてがうまくいっているように見えるが、上場を成功させたところで清水さんは転職。その理由とは?

 

「上流」を見たい

当時、まだ「学生あがりの新卒」でしたが精一杯に働いていました。すると、クライアントが出張にも連れて行ってくれるなど、とても可愛がってくれるのです。彼らに恩義を感じるし、感情移入もしていきます。そうなると、葛藤が生まれてきたのです。

クライアントから広告やプロモーション費用として数千円単位のお金を受け取っていました。でも、色んなことが見えてくると、「商品をたくさん売ること」が最終目的なら、別のやり方もあるのではないかと感じたのです。

たとえば、プロモーションにお金を使うよりも流通インセンティブや、次世代の商品開発に使うなど。でも、そのやり方だと僕が働いている会社にはお金が支払われません。

――「何の意味があるんだろう」と思ったということでしょうか?

いや、そういう「問い」の立て方はしませんでした。もっとポジティブに、「フォルダをさかのぼりたい」と思ったのです。
「プロモーション」を1個のフォルダだとしたら、「マーケティング」というフォルダの中に入っていますよね。そして、「マーケティング」というフォルダはもう1個上の「戦略」みたいなフォルダに入っている。

自分がやっているのは「プロモーション」だけれども、やるんだったらこの上のフォルダのことを分かったうえでやりたい。自分のやっていることの上を決めている世界があるんじゃないかと思ったのです。

――まさに戦略の上流、「経営」を知りたくて選んだのが戦略コンサルだったわけですね。

 

 

――その後、30歳でプロコミットを起業されましたが、そこにはどんな動機があったんですか?

クライアント向けのビジネスを経て、その後に経営企画室長としてIPOを達成し、ドリームインキュベータ(DI)という戦略コンサルとVC業務をやる会社に転職しました。僕はベンチャーで育って、ベンチャーにはすごいチャンスがあると今でも思っています。

DI 時代に感じたのは、すばらしい成長企業は意外と「お金」にも「戦略」にも困っていないということ。いい企業にお金を出したい人はたくさんいるし、戦略も経営者の頭のなかにあることが多い。では何に困っているかというと「人」なんです。成長企業は100%「人」で困っている。99%ですらなく、100%。

一方で働く個人を見ても、腕に覚えがある人とか、自分で裁量をもってやりたい人はベンチャーに行けば思いが叶う。そこをつなぐのは意味があると思ったのです。

 

後編へつづく
後編では、「未来のリーダー人材」に求められるものや、清水さんが「次世代リーダー人材」を見抜く方法について伺います。