10月12日は「スポーツの日」。スポーツを楽しみ、他者を尊重する精神を培うとともに、健康で活力ある社会の実現を願う日とされています。

 クリアソン新宿の選手・スタッフが、新宿区の小学校の関係者や地域の方々と接する中で、都心で育つ子どもたちは身体を動かす環境や時間が限られている、という声を耳にしてきました。「スポーツの価値を通じて、 真の豊かさを創造し続ける存在でありたい」という理念を掲げるクリアソンにとって、スポーツに親しむ環境づくりは、積極的に取り組みたいテーマです。スポーツの日を機に、新宿の子どもたちやスポーツ環境の現状と目指す方向を、新宿区教育委員会と区立小学校の先生に聞きました。

新宿区の小学校の男女は全国・東京都の平均とほぼ同程度

 新宿区の子どもたちの体力や運動習慣について調査し、様々な取り組みを考えているのは、教育委員会です。

 毎年、全国と東京都で実施されている体力・運動能力についての調査で、新宿区教育委員会事務局教育指導課・主任指導主事の北中啓勝さんによると、令和7年度の結果では、新宿区の小学校の男女は全国・東京都の平均とほぼ同程度ですが、中学校の男女は全国・東京都の平均を下回っています。小学校は男女とも柔軟性を見る長座体前屈と持久力を見る20mシャトルランの数字が全国よりも低いです。中学校は、ほとんどの種目で全国平均を下回っていて、中学校の方がより課題が多いと言います。

 これらの調査では、過去の平均値を含めた細かいデータが得られ、学校ごとに異なる課題や強みを把握し、分析し、教育活動の計画や各学校での具体的な取り組みに活用されています。

都心ならではの要因は

 校庭が狭い(全校児童が一度に遊ぶことはできない。50mの直線を斜めに取るような校庭もある)、公園が小さい、ボール遊びができる場が限られるといった都心ならではの場所の問題をよく耳にします。また、中学受験をする割合が高く、小学3,4年生頃には、放課後は塾に直行するという子どもたちもいます。北中さんは「変えられないことで悩んでも仕方ないので、この環境で何ができるか、この環境でも運動機会は提供できる、という発想で取り組むしかありません」と言います。

運動の二極化が顕著に

 飯田橋・神楽坂地域にある新宿区立津久戸小学校に、教員生活18年目で、新宿区教育研究会体育部の副部長も務める福島翔先生を訪ねました。

 6年生の担任でもある福島先生は「運動の二極化が顕著になっています」と指摘します。普段全く運動をしない子がいる一方で、幼い頃からサッカー、野球など特定種目の習い事に特化して続けている子もいる。特定の競技では高い能力を見せるのに、マット運動や跳び箱などで、ぎこちなさが見られることがある、といいます。先生は、昔の子どものように、日常生活や遊びの中で培われていた多様な身体動作の経験が不足しているのではないか、と考えています。

 同校でも、安全のため、休み時間に校庭を使えるのは一度に3学年まで。校庭で使えるボールは、ソフトバレーボールなど柔らかいもので、個数も制限されています。バスケットボールのような硬いボールはプール蓋(地下プールの上のスペース)のエリアに限られ、ボールを蹴る遊びは禁止されています。

「体育の授業」は変化

こうした中、体育の授業の考え方や指導法も変わっています。

「昔は逆上がりや高い段の跳び箱ができるかといった特定技能の獲得に重きを置いた指導が主流でした。現在は、低学年の学習指導要領で、『運動遊び』と表記されるように、自由な遊びの中から運動に入り、楽しみながら多様な動きを獲得するアプローチを意識しています。例えば鉄棒でも、ぶら下がりながらジャンケンをしたり、友達と動きをシンクロさせたりと、関わり合いながら運動に親しむ工夫を取り入れています」

 体育の授業でボール競技をするとしても、技術を学んでからゲームをするのではなく、持っている力で楽しめる簡易化したゲームからスタートし、ゲームを楽しむ中で結果的に技能を高める、と言います。ルールを大幅に簡易化し、運動が苦手な子や性別を問わず誰もが楽しめるよう工夫するのが主流になっています。

 それに合わせて、評価の仕方も変わっています。福島先生は「逆上がりができたからA、できないからC、といった結果や数値のみでの評価は行いません。子ども自身が課題を設定し、友達と協力しながらどう能力を高めたかというプロセスを重視しています」と話しました。環境の難しさもあり、子ども同士が集まって遊ぶレパートリーが育たず、多様な遊びの展開が難しくなっています。そこで、体育の授業で考えるルールや工夫、友達との関わりを普段の遊びにつなげたいと考えています。

「三間」が大切

 子どもたちの自由な遊びに大切なのは「空間」「時間」「仲間」の「三間(さんま)」だと福島先生は言います。校庭や公園という「空間」、放課後の「時間」の制約は、学校だけでは変えられません。一方、「仲間」と一緒に身体を動かして遊ぶ面白さは、学校で伝えられる。工夫して遊べる力を身につけられるよう取り組んでいます。

 また、体力テストの結果で、「自分は運動神経が悪い」と子どもが思ってしまう瞬間を見るのは辛いと言います。「数字に課題があれば、その動きの経験が不足していると捉え、授業に生かします。子どもに運動が苦手だと思わせたくありません。小学生の時点で、運動や外遊びまで嫌いになってしまっては…。学校体育の大きな目標は、生涯にわたってスポーツに親しむことにつなげることだと思います」。

学校の外の力を借りて

 環境をさらに改善するため、教育委員会も、日々子どもたちと接する福島先生も、学外の力を借りることを歓迎しています。
 
 北中さんは「子供が家にいる時間は長く、土日の過ごし方も重要なので、家庭や地域とも協力して意識を変えていかなければ、体力向上や運動に親しむ環境作りは難しい。公的な機関として紹介できるイベントは限られますが、地域での学校主催ではない様々なスポーツイベントの案内を家庭にするケースはあります」と言います。クリアソンのように、土日にイベントを行う企業や地域の方も多く、それがきっかけで運動好きになる子もいる、と指摘します。「他にも魅力的な地域の団体や企業はあると思います。子供にとって教育的に良いものであるという前提のもと、学校の外での運動機会を増やすためには、地域の皆さんの人材や企業との連携が重要な鍵となります」と続けました。

 福島先生も学校のクラブ活動や放課後の活動などに、外部の講師が参加することを期待しています。同校では、地域の特色を生かした日本文化クラブがあり、外部講師を招いて茶道などを体験しています。「スポーツでも同じように、いろいろな選択肢があれば、体を動かすことに興味を持つ子が増えると思います。教員だけでは、専門的な種目を年間を通して指導し、活動を広げるには限界があります。地域の方や専門家に加わっていただけると、本物の技術を見たり、子どもたちの楽しさも深まるでしょう」。

 また、福島先生は「地域の方には、体力や運動神経の見方を変えていただきたいです。数値化されたものが全てではありません。そうした見方が、子どもたちの運動を続ける気持ちにつながると思います」と話しました。

つなげて、形にする

 クリアソンでも、区立の花園小学校や柏木小学校などで、サッカー教室やかけっこ教室の講師派遣やプログラム提供を行っています。試合会場では、かけっこ教室、みんなのPitch!のほか、気軽にボールに触れられるキックターゲットなども設けています。地域の団体やパートナー企業のイベントに呼ばれて、スポーツを楽しむ機会をつくることも多いです。ことしのスポーツの日には、東急歌舞伎町タワーとのコラボイベント「歌舞伎町 FOOTBALL LIVE Powered by CRIACAO SHINJUKU」と、新宿スポーツセンターなどで行われる「新宿スポレク2026」の一環としてサッカー教室を実施。

 サッカークラブとして、新宿区や学校、町会・自治会・商工会、法人パートナー、スポーツ関連団体やNPO法人などと日頃から関わりを持っています。それぞれが持つ場所や人材、得意なことをつなぎ、自分たちだけではできない取り組みを形にする。子どもたちがスポーツに親しむ機会を増やすためにも、その姿勢を続けていきます。