駅や建物を整備するだけでは、街はつくれない。そう考える京王電鉄は2025年、クリアソン新宿とパートナーシップを結びました。地域に根差すサッカークラブと歩む中で何が生まれたのか。街づくりの最前線に立つ二人に話を聞きました。

京王電鉄株式会社
新宿再開発推進室長 平田 洋彦
新宿再開発推進室 課長 秋川 幸雄

自分たちだけでは持っていないリソースが広がる

――京王電鉄では現在、どのような事業に力を入れているのでしょうか。

平田:京王電鉄は鉄道を中心に、沿線でさまざまな事業を展開しています。私は入社以来不動産開発事業に携わってきて、現在は新宿再開発推進室で、「新宿グランドターミナル構想」の一翼を担うべく当社所有物件の再開発及び新宿駅の改良を推進しています。駅の改良や建物の建て替えだけでなく、新宿という街全体をより魅力的にしていくことを目指しています。また、会社としてはリニア中央新幹線の駅ができる橋本駅周辺の開発や京王多摩川駅エリアの街づくりなども進めています。ハードの整備だけでなく、ソフト面も含めて「日本で一番活力のある沿線」をつくっていこうというのが、会社としての方向性です。

――そうした中で、2025年にクリアソン新宿とパートナーシップを結んだ背景は。

平田:当社は古くから新宿を起点に事業を展開しており、最重要拠点と捉えております。新宿を愛し、新宿に愛される企業でありたいと考えた時に、同じく新宿を愛し新宿から愛されるクリアソンと出会い、その理念や活動に深く共感したためパートナーシップを締結させて頂きました。

再開発事業は建物を建てて終わりではありません。駅や街を皆さんに愛される存在にしていくには、地域とのつながりが必要です。その点において、クリアソンさんは特に秀でており、地域とここまで幅広いネットワークを構築してきたことは尊敬に値するものだと感じています。地域と共に歩むクリアソンさんを応援し、クリアソンさんと共に新宿をより良いまちにしていきたいという想いからパートナーシップ締結に至りました。

――平田さんご自身は、早い時期から試合を観戦されていたそうですね。

平田:最初にクリアソン新宿を知ったのは、新宿歴史博物館を訪問した際に、卓間さん(萌水/執行役員)とご一緒した時でした。その後、(2021年の)JFL昇格が懸かった西が丘での試合(地域CL)や名古屋での入れ替え戦を見に行きました。個人的な話になりますが、私が高校生の時にJリーグが開幕して、当時は東京がホームタウンのクラブはなく、関西のクラブを応援し始めました。だから、「もし地元にクラブがあったら、どれだけ幸せだろう」という想いがずっとありました。新宿にJリーグを目指すクラブがあると知って、「これは応援したい」と自然に思いました。もちろん、それを会社として考えると、地域とのつながりや街づくりという話になるのですが、個人としてもそういう想いがありました。

活動を通じて、お互いを知る

――パートナーシップが始まってから、太陽の授業、防災チャレンジパークなどさまざまな取り組みを一緒に進めてこられました。その中でも印象に残っている取り組みはありますか。

秋川:(2026年3月に)国立競技場で実施したフォトブースですね。あの企画は、現場の若手社員二人が主体となって、子どもたちにどうしたら楽しんでもらえるか、いろいろ工夫しながら準備を進めていました。当日は列が途切れず、子どもたちが駅員の姿で写真を撮るだけでなく、予想外に親御さんも希望が多く、休憩が取れなかったくらいでした。それももちろん良かったのですが、それ以上に印象に残っているのは、二人の表情なんです。イベントが終わった後、「楽しかった」という声がありましたし、自分たちで考えて形にした経験は、若手にとっても大きな財産になったと思っています。

平田:隣のJRさんの方がスタッフが多かったですけど、「負けるな」と言っていました(笑)。元々、駅では緊急時などに協力できるよう、他の鉄道会社ともコミュニケーションをとっているんですが、それとは違う形で一緒にできたのも嬉しかったです。

――最近では、鉄道教習所にパートナー関係者を招くイベントも実施されたそうですね。

平田:鉄道教習所は、一般の方が入る機会がほとんどない施設です。その場所を使ってイベントを開催したことで、クリアソン新宿のパートナー企業の皆さんに、京王電鉄という会社をより深く知っていただく機会になりました。安全を支えるための教育や訓練があり、さまざまな人が関わっています。そういう普段は見えない部分を実際に見ていただきながら交流できたことは、私たちにとっても非常に意味のある機会でした。

「共通言語」が、新宿の街に生まれた

――クリアソン新宿と取り組むことで生まれた価値を、ワードで表現するとしたら何でしょうか。

平田:「共通言語を持てた」というのは大きいかなと思いますね。企業って、ともすれば自分たちの活動だったりが優先される中で、例えば、地元企業の皆さんや商店会長等、地元の皆さんとお話をする際に「今度クリアソンの試合、いつ行く?」「地方の試合行く?」「このイベント行く?」とか、クリアソンの話題が時候の挨拶というか共通の言語になっています。勝った負けたもそうですし。

秋川:本当に大きいと思います。

平田:新宿駅周辺は、消防署も警察署も税務署も新宿、四谷と二つあって、神社も花園神社と熊野神社と二つある。だから街の中でいろいろなものが二つの軸で回っているんです。そんな中で、クリアソンはその両方をまたいで、みんなが応援できる存在になっている稀有な存在だと私は思っています。

――クリアソンができる前は、地域ではどんな話題が中心だったのでしょうか。

平田:神社のお祭りとかですね。お祭りは年に1回だったり、花園と熊野でエリアが分かれていたり、全員がコミットしているわけでもなかったりします。それが、クリアソンだと、通年で試合やイベントがあります。そこは前と後では大きく違うかなと思います。髙野吉太郎さんがよく言われるんですけど、「コロナで新宿の街が苦しんでいる時に彗星のように現れた」とクリアソンのことを表現されていて、すごく腑に落ちたんです。

――試合やイベントに参加する中で、感じている価値は。

平田:名古屋での入れ替え戦も、娘を抱っこ紐に入れて思い立って見に行きました。終わってしばらくした後に話してみると、「あの試合にいたんですか」という人が結構いるんですよ。今は国立競技場の試合や他の試合、イベントでも「あの時いましたよね」と話ができる。そして、今はまだ話してはいないけど、同じ悔しさや喜びを共有した人たちと、将来何かを一緒にするかもしれない。そんなワクワク感があります。共通言語が未来につながるかもしれません。

多様な人を包摂するクラブに

――これからのクリアソン新宿に期待することは。

平田:まずは強くあってほしいですね。ワールドカップにも選手を送り込むような。新宿のクラブとして、世界一の街なんだから世界一のクラブを目指しましょう、という思いがあります。その上で、地元の人や企業、新宿に関わる人たちみんなに応援されるクラブになってほしい。正々堂々と、持っている価値観をピッチの上でも体現して、かっこよく、強くあってくれるといいなと思っています。

秋川:選手が競技だけでなく、企業や地域の活動にも関わっていることですね。(担当の)島田選手をはじめ、選手が社内イベントを一緒につくってくれたりするのは、他のクラブではあまり見たことがありません。カテゴリーが上がれば、サッカーに割く時間は増えると思います。でも、このサッカーとビジネスの二面性があることは、ぜひ残してほしいと思っています。

平田:坂本選手がおすすめしていた本「会計の世界史」を読んで、「良い本を紹介して頂き、ありがとうございました」と直接伝えられました。選手ともサッカーだけではなく、一人の人間として関われる。それは他ではなかなかない魅力だと思います。

――新宿という街だからこそ、期待していることはありますか。

秋川:グローバルカップのような取り組みも、本当に素晴らしいと思っています。これから外国人の方はもっと増えていくでしょう。コミュニティづくりや、多様な人を包摂する役割をクリアソンが担っていくと、新宿らしいクラブになっていくんじゃないかなと思っています。

――その先の未来として、どんなクラブになってほしいと考えていますか。

平田:トップレベルの選手が競技力を高めながら、一方で子どもから大人まで、色々な人が色々なスポーツに関われる場があれば沿線にできれば、この沿線に住みたいと思ってもらえるきっかけになるなと以前から思っていました。新宿で考えると、例えば地域で役割を終えた施設などを活用しながら、トップレベルのスポーツに触れたり、おじいちゃん、おばあちゃんが体を動かしたり、子どもがスポーツを始めたり、いろいろな人が集まれる場所ができるといい。クリアソンには、そうしたスポーツを通じて人が集まる「ソフト」の担い手になってくれたらいいなと思っています。