「マジで、知らなかったです」
クリアソン新宿の選手で、地域共創部で働く吉田将也は、そう率直に話した。環境問題や脱炭素といったテーマに、もともと関心があったわけではない。
ごみの分別はする。タンブラーを持つ。人並みの意識はあったが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
そんな吉田が環境に関わるきっかけは昨年の夏、新宿区こども環境絵画コンテストの審査員の役割を、上田康太(元選手、強化部)から引き継いだこと。また、ほどなく、環境教育カードゲーム「マイアース® 新宿・神田川パッケージ」の制作プロジェクトにも誘われた。12月の「新宿SDGsフェス2025」でプロギング(ジョギングしながらのごみ拾い)を担当し、NPO法人新宿環境活動ネットとやり取りも深まり始めた。「ちょっとずつ、知識が増えてきた」中でやってきた転機が、2026年2月、3月に受講した新宿区の脱炭素チューター講習だった。

「ほとんどが家庭や事業所から出ている」想像と違った現実
地域共創室のメンバーと共に受けた講習の中で、最も衝撃を受けたのは、CO2排出量の内訳だった。「区内のCO2排出量のうち、家庭と事業所で約80%を占めていると聞いて驚きました。しかも、その多くが事業所から出ているという話で」。
これまで環境問題といえば、工場や大きな企業の話だと思っていた。しかし、実際には、自分たちの生活や働く場所にある。
「遠い話じゃないんだと初めて実感しました」
第1回の講義では、東京都市大学の佐藤教授によるワークショップも行われた。サッカーに関連づけながら、環境について考える内容だった。
「スポーツ大国になるために何が必要か、そこに気候変動やSDGsをどう紐づけるか。経済的な話やホームタウンのあり方、チケット以外のプラスアルファの価値をクラブがどう提供するかという話もあって、かなりクリアソンに配慮してもらった内容でした」
脱炭素は、単なる環境問題ではない。クラブのあり方や、地域との関係性にも関わるテーマだと感じ始めた。

「身内から変えていける」価値観の変化
「身内から変えていけることは多いと感じました」
講習を通じて、吉田の中で最も大きく変わったのは、この視点だった。
これまでは、どこか遠くの話だった環境問題が、自分の日頃の行動と直結するものへと変わった。特に印象に残っているのが、食品ロスの話だ。
「食品廃棄や食べ残しもCO2排出につながると聞いて。すごく身近なところに原因があるんだなと」
クリアソン新宿には、吉田のように練習直後に栄養を取れるよう、家から手作り弁当を持参する選手がいる。それもまた、結果的に環境に優しい行動だったと気づいた。
そう言えばと、環境絵画コンテストで見た一枚の絵を思い出した。
「人間が捨てたごみを魚が食べて、その魚を人間が食べる、という絵を見て、自分のやったことは自分に返ってくるんだ、とハッとしました。それって、サッカーも同じです。練習した成果が試合に出るとか、グラウンドをきれいに使えばまた貸してもらえるとか」
サッカーを続ける中で強く感じてきたことと、環境問題の解決に共通点が見つかった。

小さな行動を、当たり前に
「自分が変わらないと周りも変わらないと、より意識するようになりました」。
講習を受けた後、吉田の行動は少しずつ変わり始めている。グラウンドでは、気づいたごみを拾ったり、「きれいに使えば、また使わせてもらえる」を徹底する。
オフィスで日常的に使う紙も、見直す余地があると感じている。家庭でも変化があった。
「3歳の子どもに、ちゃんとご飯を食べようねとか、手洗いやシャワーで水を出しっぱなしにしないとか、そういう話をすることが増えました」
どれも特別なことではない。だが、その積み重ねが未来を変えると実感している。
サッカー選手としての役割にも変化を感じている。
「パートナー企業との関係を活かして、リサイクルやアップサイクルを進めるのは面白いと思います。使い終わったボールをキーホルダーにするとかは、選手が率先してやれること。元Jリーガーという肩書きがあって注目してもらえるのは強み、と同僚からも言われました。環境に関するイベントに出たり、人前で話すこともできると思います」。
プレイヤーとしてだけでなく、地域に影響を与える存在としての可能性を感じ始めている。
「自分のやったことは、自分に返ってくる」
吉田はこう話した。
「紙を減らすとか、ごみの分別とか、ちょっとしたことでも環境は変わる。講習を受けて、この行動一つで未来が変わるかもしれない、と思えるようになったのは大きな変化です」
そして、その根底にあるのはシンプルな考え方だ。
「自分のやったことは、自分に返ってくる」
まずはクラブの中から。そして、パートナー企業や地域へ。
一人のサッカー選手の新たな挑戦が静かに始まっている。
