KPMG ジャパンと考える、スポーツが社会に創出する価値 #2 「ホームタウン新宿では今、何が問題になっているんですか?」

KPMG ジャパンと考える、スポーツが社会に創出する価値 #2 「ホームタウン新宿では今、何が問題になっているんですか?」

2021年に、パートナーシップを締結した KPMG ジャパンとクリアソン新宿は、クリアソン新宿がもたらす「新宿に対する社会的価値」の可視化・定量化を行うことで、真に地域に必要とされるサッカークラブになることを明確化する共同プロジェクトを進めてきました。

本プロジェクトにおいて「クリアソンのビジネスモデル」と「クリアソンの価値創造ストーリー」が完成したことに合わせて、プロジェクトの背景や、その詳細に迫るインタビューの#2は、前回に引き続きKPMG ジャパンの土屋さんに、2020・2021シーズンにチームのキャプテンをつとめ、現在は株式会社Criacao社員の井筒がインタビューをしました。

<ニュースリリース>
法人パートナーのKPMG ジャパンとの社会的価値可視化プロジェクトにおいて「クリアソンのビジネスモデル」と「クリアソンの価値創造ストーリー」が完成
https://criacao.co.jp/soccerclub/information/post-9781/


新宿というまちについて

土屋さん
プロジェクトをスタートするにあたり、まず、イメージとして「新宿ってこんな街だよね」というものを、ざっくりですが整理しました。まず一つは「人びとが集う巨大な街」であること。区外からの流入を含めて新宿区の人口は増加し、新宿駅の乗降客数もギネス記録になるなど、活発で賑わいがあります。もう一つは「多様な街」であること。外国籍の居住者の比率は全国の市区でトップ、また、新宿二丁目のようなセクシャルマイノリティと呼ばれるLGBTQ +が集う繁華街もあります。あとは、単身世帯が多いことも特徴です。

井筒:
クリアソンのメンバーは「人々が集う」「多様性」という新宿の特徴と、サッカーというスポーツの相性が良いのではないかと仮説を立てて、これまで活動をしてきました。価値観がバラバラでも、週に1度、スタジアムでも飲食店でもどこでも良いんですけど、足を止めて同じものを観る、応援をする。きっと、年齢も職業も国籍もジェンダーも関係なく、一緒に盛り上がれるし、それが街にとってプラス効果をもたらすのではないか…と。そう漠然と思ってきました。それを、このプロジェクトで可視化していくということですね。

土屋さん:
そこで、まずは新宿区の地域住民を主としたステークホルダー起点で、課題を整理しました。印象(イメージ)から現状(ファクト)、そして実際にどんな課題があるのか?ということを可視化しています。

井筒:
さらに、それが最終的に新宿力の総合計画、つまり新宿区が目指す街づくりと一致しているのかということまで照らし合わせるということですね。

様々なステークホルダーの存在

土屋さん:
クリアソンが、スポーツやサッカーを通じて貢献できることはたくさんありますが、分析をしていく中で興味深かったのは、まず外国籍の方に対してという切り口です。コロナで数字が前後しているとはいえ、新宿区には外国籍の方が人口の約10%もいます。この領域の課題解決ができると、かなりのインパクトがあります。他のクラブでも、地域の社会課題解決はやっていますが、新宿ならではと言えます。

また、性的マイノリティの方の区への相談件数が少なかったり、施設利用が少なかったりという現状も見えてきました。クリアソンや、クリアソンを通したスポーツというもので、街と人との間にある障壁を下げることができれば、街に一層の一体感をつくることができるかもしれません。

井筒:
自分と違ったルーツを持つ人に対して「よくわからないから怖い」というのは人間の本能のようなものかもしれませんが、スポーツを通してこうした課題を解決できるかもしれません。僕は、自分が新宿に住んでいることを言うと「住むとこあるの?」とよく驚かれますし、新宿で飲もうと言うと、やはり治安が悪いイメージを持たれていることを感じます。

土屋さん:
次に若者の単身世帯者が多いことも新宿区の特徴です。

井筒:
他でもない、僕もそうです。

土屋さん:
若者と呼ばれる層は、自治参加の意識を持ちづらいと言われています。実際に、地域イベントへの参加件数が少ないんです。新宿にずっと住むつもりがないから、または新宿で生まれ育った人が、人口の比率に対して多くないことも原因かもしれません。そこに、サッカークラブを応援する、集まる場があると、横の連携もできるし新宿への愛着が生まれ「この街を良くしよう」という動きが出てくるはずです。クリアソン新宿を応援している姿を見て「楽しそうだな」と感じれば、区外からの流入や、区内の定着率が上がる可能性もあります。

土屋さん:
次に、高齢者です。クリアソンの試合会場には、年齢層が高めの方々もたくさんいらっしゃる印象です。

井筒:
新宿で長く飲食店を経営されている方々とか。

土屋さん:
私もよく試合を観に行かせてもらっていますが、クリアソンの試合のスタンドって和やかで良いなと感じます。ヤジが飛んだりすることがないので、高齢者や、子供連れのファミリーで応援に行っても、周りの人びとと気軽にコミュニケーションができます。独居老人が多い新宿では、こうしたコミュニケーションが増えることによってコミュニティが形成されていくことは非常に重要です。

次に、子どもです。これがまた新宿ならではですが、外で遊ぶ場所がないという課題があります。

井筒:
公園、少ないと感じます。

土屋さん:
僕は生まれも育ちも歌舞伎町界隈なので実体験なのですが、学校が終わってから、サッカーとか野球をする場所がないんですよね。

井筒:
僕は新宿中央公園の近くに住んでます。大人にとっては、カフェがあって芝生があって、とてもいい場所ですが、例えば子供が5、6人で野球する場所はありません。

土屋さん:
クリアソンが関わっている「しんじゅくこどもまつり」や「新宿グローバルカップ」で、そうした機会を提供することや、運動に対する機運を高めることは他の地域に比べて格段に価値があります。

土屋:
そして、最後にビジネスパーソンです。

井筒:
MECEさ(漏れなく・ダブりなく)はどこで担保しているんでしょうか。

土屋さん:
そこは難しいところで、今回、新宿区の基本構想や総合計画、研究報告、統計資料等に全て目を通しましたが、実際の課題は他にもあるかもしれません。ただ、ここに挙げられているものは少なくともファクト(事実)として確実にあるので、クリアソンがただ勝手に決めつけているわけではないということは言えます。

加えて、ステークホルダー起点だけではカバーしきれない範囲を「エリアコミュニケーション」として、最後に分析しました。

井筒:
僕は大阪出身なんですが、大阪の街って、梅田とか難波とか京橋とか繁華街としては同じ印象なんです。ただ新宿は神楽坂とゴールデン街が同じ新宿区にある。一般の人のイメージは東口、歌舞伎町かもしれませんが、地域が連携して、様々な顔を持つトータルでの新宿をアピールできれば、一層、街が賑わう気がします。

土屋さん:
私も、入社したてのころは、新宿区の津久戸町のオフィスに通っていたんですが、新宿出身なのに最初はそこが新宿区だと知らなくて(笑)。クリアソンのポスターはすごくいいですよね。落合で染め物の場所があるということ自体、区外はもちろん区内の人もあまり知らない。区内で回遊性を作っていくことはこれまでなかなかできなかったことですけど、サッカークラブを通じて連帯感を生み出して新宿トータルでのまちづくりに貢献することはできるのではないでしょうか。

井筒:
回遊性が生まれれば一日、遊べますね。

クリアソンが目指すべき社会的価値

土屋さん:
こうしてクリアソンは「課題解決のキーワード」をステークホルダーごとに7個出しました。その中でも、新宿のコミュニティを強化することで解決されていくものが4個、そもそも新宿の強みで、取り組みを増やせばさらに魅力が増すものが3個、出てきました。この段階で、まずはクリアソンが目指すべき社会的価値が、この7個であると言えそうです。

井筒:
前半は課題解決、後半は強みを生かしてパワーアップできる領域ということですね。サッカークラブのいいところは、例えば僕の前所属の徳島ヴォルティスは、もちろん受取手にとって濃淡様々ですが、徳島県を背負う存在としていても違和感がないんですよね。

クリアソン新宿も、新宿をまるっと背負うことができるかもしれない。それは意義深いことですし、とても楽しみなことです。そんな中で、7つのテーマで分けた社会的価値の創出に対して、クリアソンは何をやっていくのかということですが…。

#3に続く…

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