Criacao Player’s Story −On the Road− Vol.9 大和田歩夢「王様から、空気を読む選手へ」

Criacao Player’s Story −On the Road− Vol.9 大和田歩夢「王様から、空気を読む選手へ」

Enrich the world. を掲げ「誰もが豊かさの体現者となれる社会」を目指す Criacao Shinjukuは、JFL昇格のために2020シーズンを戦う。その中でも、株式会社Criacaoではなく、それぞれの企業・大学に所属しながらプレーする選手たちにスポットを当てた連続企画。出身はJユースからサークルまで、現所属は大手企業から大学生まで、それぞれの立場の過去・現在・そして未来へと続くサッカー人生をひもとく。執筆を担当するのは、鹿屋体育大学サッカー部出身、現在はインターネット広告代理店勤務でクリエイティブ業務を行う 深澤 大乃進。選手たちの、昔と変わらない姿・変わっていく姿の両面に、第三者視点から迫る。


「王様から、空気を読む選手へ」大和田歩夢
今回は大和田選手を取材。常に明るくチームでは愛されキャラ、そして加入から成長が止まらないという大和田選手。取材を通して、その素顔に迫った。

挫折した王様

小学生から中学生まで、ドリブラーとして周囲とは別格の存在、言うならば王様キャラだった。誰にもボールを取られず、サッカーには自信があった。地元では名の知れた大和田は、強豪校である茨城県の水戸商業高校へ進学した。

鳴り物入りで入学してすぐに、その実力を評価され、一年生ながらトップチームに所属する。体格差がある上級生に対してもドリブルは通用したが、大和田の前に立ちはだかったのは、上下関係という壁だった。ミスをするたび先輩から厳しい声が飛び、練習以外のところでも、一年生は気が抜けた行動を徹底的に指導された。そんな環境で過ごす中で、大和田は周囲の目を気にし、怒られないように、嫌われないように、空気を読みながら行動するようになった。

その性格の変化はサッカーのプレーにもあらわれた。ドリブルという特徴は変わらなかったが、これまでとは違って、周囲を使いながら突破していくスタイルに変化した。

当時を振り返り「周りを見て、どう立ち振る舞うか考え、自分なりのポジションを築けるようになった」と性格の変化をポジティブにとらえた。その一方で、「周りを気にするあまり、流されやすく自分の意志を出せないことも多くなった」と話した。

高校二年生で腓骨筋腱脱臼により九ヶ月離脱。プロサッカー選手への熱は冷めてしまう。「三年生になった時に試合に出られればいいかな」と考えが変わった。怪我の期間を除けば、トップチームで試合に出場し続けた選手だったが、大学ではサッカーではないことがやりたいと思い、勉強で中央大学へ進学した。


「え、王様ってそんなにすぐ空気を読めるようになるの?」と思ってしまった。王様と言えば、周囲の目を気にせず自分の意思を押し通すタイプ。しかし、大和田選手の場合は、そもそも仲間との関係性を気にする選手だったのではないだろうか。だからこそ、自分の立ち振る舞いやプレースタイルを適応させた。

大和田選手は「自信を折られ、自分を表現できなくなった」と振り返ったが、組織や人を見て、自分を柔軟に変化させられることは、僕は強みだと思った。そして、その大和田選手の強みは、中央大学体同連フースバルクラブ、クリアソン新宿と異なる環境でさらにアップデートされていく。

組織のために、自分の役割を

大学では、サッカーを真剣にするつもりはなかったが、高校の憧れの先輩の誘いで、中央大学体同連フースバルクラブへ加入する。サッカーを続けた理由を、先輩の誘いと「自分にとってサッカーが必要だと思えたから」と話した。サッカーから離れたのは少しの間だったが、練習参加などを通して、サッカーが大切だったと実感したと言う。

そこからは、フースバルクラブでのサッカー生活に没頭していく。先生や先輩に圧迫され、義務感を感じながら続けていた高校時代とは異なり、学生主体で、自分たちで考えて取り組むサッカーにハマった。大学三年生になると、周囲との調和を取れる行動が評価され、キャプテンに就任。今までは、自分が嫌われないために空気を読み、自分が楽しむためにサッカーをしてきたが、キャプテンになったことがきっかけとなり、チームのために自分はどう行動するかという考え方が生まれた。例えば、後輩がふざけた態度で練習をしているとき「それまでは明るく受け流してきたが、キャプテンになってからはチームの雰囲気をつくるために、厳しさを持って接するようになった」と話した。

大学卒業後は、大手旅行会社へ就職。クリアソン新宿へはフースバルクラブの先輩である、下小牧 歩(現・Criacao Shinjuku Procriar)に誘われて加入した。一年目は仕事に忙殺され、練習はおろか試合に参加できないことも多かった。それでも、大和田は真面目な人が多い中で、組織が上手く回るために、和ませる役を買って出る。大和田なりに、高校・大学で学んだことをクリアソン新宿で生かそうとしたのだ。

しかし、そうして、ある意味でチームに自分のポジションを築けていたこともあって、サッカーとは向き合う時間を作れていなかったが、特に危機感を持たずに一年目を終えた。


エピソードを通して、空気を読む目的が「自分」から「組織」へ移っているように感じた。フースバルクラブでキャプテンになり、その役割が組織に目を向けさせたのだろう。しかし、普通はキャプテンを任されると、周りとの関係性において、壁にぶつかることもあると思ったが、大和田選手の話しぶりからは、そのような印象はなく、そつなくその役割を担えていたように感じた。

それは大和田選手の強みである組織や人を見て、自分を柔軟に変化させられる力が生かされたからではないかと考える。この後、同じように組織で適応する力を持った大和田選手がクリアソン新宿での活動を通して、さらに変化していく姿は実に興味深かった。

自分は、どうしたいのか?

二年目、大和田にとっての転機が訪れる。それは関東サッカーリーグ二部、前期第九節の東邦チタニウム戦。なかなか試合に出場できなかった大和田は、この日スタメンとして起用されたが、チャンスを棒にふる。試合を振り返って「本当に何もできなかった」と話した。これまでは周囲にあわせて自分の行動を決めることが多かった大和田のプレースタイルが通用しなくなった瞬間だった。井筒陸也(#3)、須藤岳晟(#8)から「歩夢はどう(プレー)したいの?」と言われ続けていたことが、その試合では頭に残った。「瞬間的に自分で判断することを求められるレベルでは、自分の意思を持ってプレーしないと戦えない」大和田は痛感した。

そして、ここから行動が変わる。まずは仕事のやり方を見直した。残業を理由に練習を欠席することが多かったが、仕事の全体像を見通し、練習のない曜日に業務を振り分けるようにした。また、職場の同僚や上司にも、自分のサッカーへの取り組みを伝え、会社で共有されているスケジュールにも「サッカーの練習」と記載、協力してもらえるような環境を整えていった。そして、サッカーと向き合う時間が増えてからは、技術、戦術、コンディションに至るまで、チームメートから吸収しながら、大和田は急成長を遂げる。昨シーズンの後半戦はスタメンとして定着し、試合でも輝きを放つ存在となった。

そんな大和田を見て「小さくても頑張っている姿に、自分の子どもを重ね合わせて、勇気をもらっている」と、そんな声を人づてに聞いた。「自分でも、サッカーを通して誰かに影響を与えられる」という大和田にとっての新しい気づきは、これまで以上に彼をサッカーに没頭させている。

最後に今シーズンの意気込みを聞いた。「試合に出る出ないに関わらず、一緒にプレーしている仲間を勇気づける存在になりたい」と話した。「どんな相手でもガンガン仕掛け、味方の不安を払拭するようなプレーができるのは、ドリブラーであり、いい意味で世間知らずのサークル出身の自分の役目だから」と、強い口調で語ってくれた。


「意識が変われば、行動が変わる。行動が変われば、習慣が変わる。習慣が変われば、人格が変わる。人格が変われば、運命が変わる。運命が変われば、人生が変わる」大和田選手は、この言葉通りの人生を送っているのではないだろうか。サッカー選手として、自分の意志を持ってプレーしなければならないと気づいたことで、日々の過ごし方が変わり、プレースタイルの変化だけでなく、人間的な部分にも変化が見える。これまで空気を読んで生きてきた、という人からは感じられない強い意志が、最後の意気込みからは感じられた。

クリアソン新宿で揉まれながら模索を続けた時間が、意味あるものとして大和田選手に返ってきている。体育会サッカー部出身者、Jリーグ経験者が多くいる、関東サッカーリーグの中で、一度はサッカーを諦めたサークル出身、という未知数の存在として、サッカー界の学歴をひっくり返すような活躍を期待したい。

 

 

written by
深澤 大乃進(ふかさわ ひろのしん)
学生時代は選手兼広報として、SNS運用や集客を担当。現在は、インターネット広告代理店勤務でクリエイティブ業務を行う。会社の同僚が所属していたことをきっかけに、クリアソン新宿を知る。クリアソン新宿のメンバーと話していく中で、チームの方向性や活動する選手たちに魅力を感じ、取材を決意。

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