10月4日公開のアニメーション映画『ふれる。』とコラボレーション企画。監督の長井龍雪氏と、クリアソン新宿の北嶋秀朗のW監督対談が実現。舞台となった新宿の印象、作中で鍵となる「人と人との繋がり」というテーマを選んだワケ、監督としてチームを率いる上で大切にしていること―。業界の垣根を越え、共通する想いを語ってもらった。

(右)長井龍雪(ながい・たつゆき)
アニメーション監督・演出家。1976年1月24日生まれ。新潟県出身。2006年に「ハチミツとクローバーⅡ」で監督デビュー。2011年に放送されたオリジナルアニメーション『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』は社会現象にもなり、劇場公開された映画は興行収入10億円を突破した。脚本の岡田麿里氏、キャラクターデザインの田中将賀氏とのタッグで『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』などヒット作を作り続けている。
(左)北嶋秀朗(きたじま・ひであき)
クリアソン新宿 監督。1978年5月23日生まれ。千葉県出身。市立船橋高校卒業後に柏レイソルに加入。1999年からはエースとして活躍し、日本代表にも召集された。清水エスパルスを経て2006年には柏に電撃復帰し、J1昇格に副キャプテンとして貢献。2011年シーズンではJ1優勝を果たした。現役引退後は、ロアッソ熊本、アルビレックス新潟、大宮アルディージャでコーチを歴任。2023年にクリアソン新宿のヘッドコーチに就任、2024年には監督に就任。
―今作、新宿・高田馬場が舞台になっていますが、その背景には何があったんでしょうか?
長井監督(以下長井):映画の舞台は土地勘のある場所がいいなとは思っていて…。先に上京した友達が住んでいたのが西武新宿線近辺で、地元から遊びに行ったとき深夜に到着したのが新宿駅でした。今、思うと上野駅とか東京駅でもおかしくないんですが、確か新宿で。そのあと高田馬場に行ったりしたので、あの辺りのことはよく覚えていました。上京と密接に結びついている場所です。
北嶋監督(以下北嶋):新宿には、どんなイメージを持っていましたか?
長井:なんか怖いところっていうイメージでしたね(笑)。
北嶋:そうですよね(笑)。僕も千葉出身なのでそういう印象が強かったんですが…。ここで活動してみると、実は下町っぽいところがあったり温かい面があったり、様々な表情がある街だと感じています。
―その新宿を舞台にして「人と人を繋ぐ」ことをテーマにした理由を教えてください。
長井:人の関係性というテーマは今作に限らず続けてきた中で、これまでは1か所に残った人たちを深く掘っていくような話でした。今回は、自分たちは変化していないつもりでも外的要因が変化する、そういう状況に置かれた人たちを描いています。そういう意味では、状況=シチュエーションというものをベースに「こういう変化が起きたら、この人たちの関係性はどうなるんだろう」というように思考実験的にストーリーを進めてきた。その先で、こういうテーマになったというのが近いです。

―北嶋さんは『ふれる。』をご覧になっていかがでしたか?
北嶋:本当に面白かったです。クリアソンも「人と人を繋ぐ」こと大切にしています。「新宿の街を繋ぐ」「企業を繋ぐ」いろいろありますが、僕は監督として特に選手同士の繋がりを重要視しています。映画の中では、言いたいことを言わずに済ましていると最後に大変なことになる様子が出てきましたが、サッカーの現場もまさにその通りだなと思いました。
長井:ありがとうございます。
北嶋:「ふれる」の存在はサッカーでは「ボール」に近いなと思いました。ボールを通じてパス交換することで「調子が良さそうだな」とか「調子が良くなさそうだなとか」とかある程度は感じられるんですけど、本当のところは話さなきゃわからない。作中にもあった通り「ふれる」にすべてを託しているようじゃダメなんだなと勉強になりました。
長井:すごいかっこいい表現ですね。僕も勉強になります。

―印象に残ったシーンはありましたか?
北嶋:3人がバルコニーで会話するシーンです。あることをきっかけに、自分たち3人の関係について、「これって本当に親友なの?」と伝えるところです。チームでも言いづらいことまでちゃんと伝えられているか大事になる場面があります。
長井:世間的には「全部オープンの方がいいよね」っていう風潮もあると思いますが、俺としては「実際はそうでもないこともあるよね?」っていうのも、何となく話の中に入れられたらなと。それで人間関係がうまくいっているのであれば、それはそれでアリなんじゃない?っていう。
北嶋:あとは、秋がすぐにカッとなって手を出してしまうところですね(笑)。
長井:今回は3人の中で一番主人公らしくないキャラを主人公にしちゃったなって(笑)。「諒が主人公だったらすごくスッキリ終わるんだろうなあ」と思うこともありました。でも、そんな秋という難しい子をどう描いていくかと向き合ってきたところもフィルムに出てきて、その悩みも味になってたらいいなと。
北嶋:監督という仕事をここでスタートさせてもらったきっかけは、クリアソン新宿の「人と人を繋ぎたい」という想いに共感したからです。そういう自分の背景があってこの映画を見て、そして全部をさらけ出すことが必ずしも良いとは限らないというお話も聞いて、とても面白かったです。

―お二方とも監督という立場でチームを率いている中で、意識していることは何ですか?
北嶋:僕は、チーム全員がキラキラした目でボールを蹴ってほしいと思っています。サッカーは、週に一度、試合でそれまでにやってきたことが良かった悪かったの判決が下されるスポーツで、今シーズンは勝ててなくて非常に難しいのですが、それでもいきいきしている選手たちに感謝しています。長井さんは映画監督として、スタッフたちにどんな働きかけをしていますか?
長井:性格的に「盛り上げる」とかはあんまりできないのですが「とりあえずこういうものを作る」っていうイメージだけは揺らがないように、スタッフが迷わないようにしています。「こっちでいいんだよ」って常に言ってあげられる存在になれたらいいなと思ってやっています。
北嶋:作品を作るときは、最初から方向性は定まっているんですか?
長井:シナリオを考えたりしている段階は、割と小さな集まりなので意思決定もしやすいんです。でもアニメ本編の制作に入ってくると作画さん、撮影さん、美術さん…と大勢になります。そのとき僕が見ている方向がバラバラだと、みんながどこを見ていいかわからなくなります。
北嶋:なるほど。映画のチームというと何人くらいになるのですか?
長井:どうなんですかね。結果的に300人とかは超えている気がします。
北嶋:それはすごいですね。そうなると自分はぶれてないつもりでも、ちょっとニュアンスの違うことを言ってしまうと、そっち側に流れて行ってしまうみたいなことが起きそうです。
長井:そうならないように絵コンテとかでイメージを固めて、なるべく最初の段階で伝えるようにしています。あと打ち合わせというのは「こういうものですから、こうなります」っていうように明確に伝えられる場にしています。限られた打ち合わせの場ではポイントしか伝えることはできないので、ふわっと臨まない。
北嶋:それぞれに個性がある人たちが集まっている現場を率いてくのは難しいですよね。
長井:そうですね。個人の力はもちろん発揮してもらいたくて、ただ作品から飛び出さないように「こういう表現までで抑えよう」っていう。そのさじかげんかなと思います。
北嶋:僕も同じです。枠を飛び出さなければ、もうちょっと攻めたプレーをしてもいいぞと思いつつ、でもこれ以上はいかないでみたいな枠もやっぱりあって。その大きな枠を作るのが監督として重要ですね。本当に勉強にありました。ありがとうございました。
長井:こちらこそ、ありがとうございました。

アニメ映画『ふれる。』
2024年10月4日(金) 全国ロードショー
https://fureru-movie.com/
試合
JFL 第20節 vs レイラック滋賀
9月16日 (月・祝) 17:00 キックオフ
味の素フィールド西が丘
くりあにゃん×ふれるコラボステッカーを配布します
