手塚マキ × 杉山文野 × クリアソン新宿監督 成山一郎 “10.9 国立開催 特別鼎談” 新宿の街の多様性と、新宿のサッカークラブについて

手塚マキ × 杉山文野 × クリアソン新宿監督 成山一郎 “10.9 国立開催 特別鼎談” 新宿の街の多様性と、新宿のサッカークラブについて

明日に迫った10.9 国立開催。サッカーの試合だけではなく「新宿の日」と題して、新宿の魅力が余すことなく伝わる、そんな一日を目指す。そこで、長く新宿や歌舞伎町に関わってきた 手塚マキさんと杉山文野さんにお越しいただき、クリアソン新宿の監督 成山一郎とともに、新宿と新宿のサッカークラブに期待すること、そして10.9について鼎談を行った。

手塚マキ
1977年、埼玉県生まれ。97年から歌舞伎町で働き始め、ナンバーワンホストを経て独立。歌舞伎町でホストクラブや飲食店などを多数構える Smappa! Group の会長。ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を立ち上げるなど新宿を拠点に活動。歌舞伎町振興組合常任理事。著書に『新宿 歌舞伎町』『ホスト万葉集』など。

杉山文野
LGBTQの啓発を中心とした飲食店の経営やイベントの運営、講演会やメディア出演などで活動。パートナーとの間に二児をもうけ、精子提供者である友人と共に3人親として子育てを行う。フェンシング元女子日本代表。日本フェンシング協会理事、日本オリンピック委員会理事をつとめる。著書に『元女子高生、パパになる』『3人で親になってみた ママとパパ、ときどきゴンちゃん』など

成山一郎
Criacao Shinjuku 監督

丸山和大(ファシリテーター)
Criacao Shinjuku 代表

対談場所:SMAPPA! HANS AXEL VON FERSEN


新宿の街と多様性について

丸山和大(以下:丸山)
10月9日に行われる国立競技場での試合、勝手にですが「新宿の日」と題して開催させてもらいます。サッカーだけではなく、この日を通じて新宿の様々な側面を発信できればと思っているので、手塚さん・杉山さんにも新宿と、新宿のサッカークラブへの期待について語っていただきたいです。

成山一郎(以下:成山)
よろしくお願いします。

丸山
まず、シンプルに新宿とはどんな街なんでしょうか。その中で、サッカークラブとしてどう関わっていくのがいいんでしょうか。

手塚マキさん(以下:手塚さん)
ユニークな街として、色が増えていくことはいいんじゃないですか。サッカーもその一つとして。例えば企業が「ここは〇〇の街だ」とか「こうした方向で〜」とか先導することがありますが、新宿は誰かがまちづくりをしてつくれる街じゃないんですよ。

新宿は新しいものを何でも受け入れて、それでいて既にある色は拭い去れない。だから色々なことができるのが魅力です。その中で、いかにサッカークラブが存在をつくっていくのかということだと思います。

丸山
手塚さんが、新宿の特に歌舞伎町という場所で存在をつくっていった秘訣は何だったんですか?

手塚さん
もう20年間もやってきましたから、長くやってたことですかね。あと、うちのホストは犯罪率が低いです(笑)。

丸山
犯罪率(笑)。大事ですね!

手塚さん
僕自身も体育会系として生きてきたので、アスリートがヤンチャなことも知ってるんですけど、ホストの世界も同じでヤンチャなことが起きがちです。そんな彼らをどうマネジメントするか考えたときに、スポーツのマネジメントに興味を持って本を読んでいた時期がありました。

成山
でも、ヤンチャなやつが活躍するんですよね。

手塚さん
ある意味、”KY”なやつですよね「ここでやるんだ」って腹をくくってるやつ。

僕は、彼らがヤンチャなまま社会で生きていくことができるよう、短歌をさせたりして「文化」を教えたんです。クリアソンはそれを「ビジネス」でやろうとしているんじゃないですか?アスリートにビジネスを教えることで、社会に適応させていくというか。

丸山
杉山さんはいかがですか?

杉山文野さん(以下:杉山さん)
僕は、色々な人と会って、行ったり来たりをするのが好きなんですよ。新宿にも多様性がありますが、一人一人の中にも多様性があって、それを良い意味で自分で使い分けるというか。僕の家は代々歌舞伎町に関わってきたので「杉山さんちの子ね」と声かけてもらうんですが、それだけではなくフェンシングやJOCの仕事、グリーンバード*1 の活動というように。

若いころは言語化できていなかったんですが、セクシャリティ、ジェンダーで居場所がなかった自分にとって、歌舞伎町は、そうしたことを受け入れてくれる懐の深さがあって居心地がよかった。マキ兄(手塚マキさん)と会ったときも、歌舞伎町の「昼と夜が一緒になったら面白い」と意気投合しました。

“こっち”と”あっち” “当事者”と”非当時者”ではなく、常に両側面があって、自分がどっちになってもサポートできることが大事だと思います。

*1「きれいな街は、人の心もきれいにする」をコンセプトに誕生した原宿表参道発信のプロジェクト。歌舞伎町チームは手塚さんや杉山さんが長く牽引し、現在のリーダーは株式会社Criacaoの社員がつとめる。

丸山
グリーンバードの活動では、いつもお世話になっています。

グリーンバードの活動に参加する #11 伊勢太一

杉山さん
グリーンバードをやり始めて今年で15年目ですが、スポーツという視点がなかったので新鮮です。地元の企業の方にも来てもらえて、ホストがいて、アスリートがいて、いつも30〜40人で掃除をしてるのは面白いですよね。

成山
良い面だけじゃなく両面をというのはまさにその通りですね。クリアソン新宿は今シーズン勝利が遠くずっと最下位をさまよっていました。負けると落ち込んで、周りの人にもネガティブな影響を与えて、もうやらない方がマシなんじゃないかとも思いました。

ただ、それは人間の “ものさし”の話であって、良いとか悪いとかだけではなく、勝ちも負けもサッカーだから、ひっくるめて大事にしないと「新宿のサッカークラブ」にはならないなと思いました。

杉山さん
昨今は、SNSで良い面ばかりが見えるようになりました。毎日カップラーメン食べていても、一日だけ素敵な食事をすれば、ずっとそうであるかのようにアピールすることができますから(笑)。

スポーツやっていた経験から思うのは、悪いことこそ糧になっていく。嬉しい・楽しい・ハッピーはその場の限りな感じがします。悪いことは決して悪いだけではない。そう考えると、歌舞伎町はずっと学び続けているのかもしれません。

丸山
その中で、新宿の多様性をポジティブなものにしていくにはどうすればいいのでしょうか。ともすると分断を生んでしまう、難しいテーマであるように思えます。

杉山さん
多様な人たちの多様な意見はまとまらないんですよ。LGBTQの活動をしている中で、やはり多様性やマイノリティーの議論はめっちゃ時間がかかります。でも、それでいいんだと思います。急いで何でもきれいにすると、本当に大事なものが崩れていきますから。

手塚さん
新宿って「隣にこういう店が入っちゃった」というコミュニケーションがないんですよ。「ここの通りはこんな雰囲気にすべきだ」という意図がない。

一時期、ビルオーナーたちから「ホストが行儀が悪い」とか「コロナでも営業」していると非難されたことがありました。僕がすごい怒っていたのは、そう言っているビルには違法店が入っているんですよ!そして、コロナで営業するなというのにテナント料は変えない。

この問題の本質は、ビルオーナーが歌舞伎町にいないことです。ビルをビジネスとして持っているだけ。だから街を良くしたいというようなことを言っても、彼らは新宿や歌舞伎町の人間じゃないんです。そういう無責任・無関心があるから多様性が生まれている、とも言えるかもしれません。

クリアソン新宿と新宿

丸山
これからの、クリアソン新宿に期待することを教えてください。

手塚さん
古くからここにいる人たちにとっては地元にスポーツクラブができるのは悲願ですから、その辺りの層はすでに巻き込めていると思います。ただ若者はソフトに興味を持つので「サッカーが面白い」「選手が面白い」ということが必要です。

あと、新宿の若者や在日の多国籍の人たちは、アイデンティティクライシス、つまり「自分が何者か」課題を持っています。僕も地元を離れて地元がない、堂々と言える職業ではないという点で、ちょっとそういう部分がありました。

クリアソン新宿を通じて、新宿愛を持つ若者が増える。サッカーは地元愛の支柱になれると思うんです。ホスト・キャバ嬢だけじゃなくても、日本では従事している人が最も多い職業は飲食店員なので、新宿の飲食店の店員やそこに飲みに来ている人に対しても、そういう支柱になれればいいですね。

僕らはもうおっさんで、おっさんは自分が何者かをもう整理できています。だから、やっぱり若者を巻き込んでいくべきだと思います。

丸山
その中で、ターニングポイントになりそうな10.9の国立競技場での試合があります。

杉山さん
そもそも国立が新宿にあるということは、みんな知ってるんですか?きっと渋谷だと思われていますよね。僕はあの近くでお店をやっているんですが「ここが区境なのか」と思います。

丸山
それを知っていただく機会にしたいとも思っています!

手塚さん
クリアソン新宿のサッカーは、どんなコンセプトなんですか?

成山
クリアソン新宿には、昔から「闘う・走る・声を出す」という言葉があって。僕が聞いたとき、最初はサッカーをしている中で「ただ走ってー」という意味だと思っていたのですが、それだけじゃないんです。

これは「やり方」ではなく「あり方」の話で、闘うというのは「常に挑戦者であること」走るというのは「主体性を持ってやるということ」声を出すというのは「周りを巻き込むこと」を意味しています。

サッカーは、当たり前ですが勝ったり負けたりするんですけど、ピッチ上では「闘う・走る・声を出す」が体現できているのかを、僕も選手も拠り所にしています。

丸山
元々、クリアソンはサークルが出身者が主で、上手いメンバーが集まったわけではありませんでした。その中で、体育会出身者主体のチームに勝たないといけない構図だったので、誰もが頑張れるところで頑張ることを大事にしてきました。

手塚さん
やはり、サッカーが魅力的じゃないとファンはつきませんよね。僕らはみなさんとお会いしていて、新宿のサッカークラブだから興味を持っていますが。

面白いサッカーとつまらないサッカーは、高校生でもプロでも変わらずに間違いなくあります。だから、10.9 は面白いサッカーをすることが重要な気がします。普段、あまりサッカーを観ない人も多いと思うので。

杉山さん
サッカーを観たときに、クリアソンの伝えたいことが伝わるゲームになるといいですよね!10.9、楽しみにしています!


試合概要
10月9日 (日) 13:00 Kick-off
JFL 第24節 vs 鈴鹿ポイントゲッターズ
@国立競技場

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