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アスリートとして体験した価値をビジネスパーソンへ~岡村康平の新たな挑戦

フットサルのトップリーグ、Fリーグで長くプレーした岡村康平は、2023年4月から株式会社Criacaoで新たなキャリアを歩み始めた。ブラインドサッカーを活用した企業研修の講師や営業を務め、自身も長く携わってきたスポーツの価値を活かして働く。「時間が経つのがものすごく早い」と感じる1年半余りの日々を振り返った。

周りを活かす遅咲きのキャリア

教員を目指していた大学時代にフットサルと出会った岡村は遅咲きのキャリアで、27歳でFリーグデビューを果たした。P.D.E.SQUARE、P.S.T.C.LONDRINAを経て湘南ベルマーレでFリーグに初出場し、2017年にフウガドールすみだに加入。前線の選手ながら、得点力よりもアシストやチームプレーに重きを置くスタイルが評価されていた。また、明るいキャラクターでムードメーカーとしても知られていた。5季プレーしたクラブから契約満了を言い渡され、引退を決めていた中、最後の大会の2023年全日本フットサル選手権で優勝した。

クリアソンとの関わりは、まだFリーグでプレーしていた2019年に始まった。同社取締役CSOでフットサル界に幅広い人脈を持つ竹田好洋から誘われ、クリアソンのフットサルチームの戦略コーチに就任。その指導の現場を見ていた竹田らから、「講師ができる。うちにはそういう人間はそんなに多くない」と背中を押されたことが、引退後の新たなキャリアに繋がる。35歳でFリーグ選手を引退した後、株式会社Criacaoで最初に任された仕事は、ブラインドサッカー体験型企業研修プログラムの講師だった。

ブラインドサッカー研修講師としてデビュー

このプログラムは、NPO法人日本ブラインドサッカー協会が開発し、チームビルディングやコミュニケーション能力の向上、多様性(ダイバーシティ)理解を目的としている。見えている人と見えない人の間のコミュニケーションが重要となる競技特性を活かしている。参加者はアイマスクを着用し、視覚を遮断した状態で活動することで、声の掛け方やコミュニケーションの大切さを体感し、チームワークの強化や多様性への意識向上を図る。講師はブラインドサッカー選手とペアで、体験型セッションと振り返りを通じ、気づきや学びを深めるファシリテートをする。

2023年度(2023年4月~2024年3月)は69件3,219名に実施。。2014年に「OFF T!ME Biz」として一般公開してから2023年度までに、累計で661件、計26,457名が受講した。クリアソンはスポーツの価値を活用した研修事業の一つとして、日本ブラインドサッカー協会と提携してこの業務を担う。

現場に立つ岡村は、「『内定辞退がなかったのは、ブラサカ研修のおかげではないか』と企業の担当者から言われたときは、嬉しかった」と言う。別の研修で、管理職が中心で、普段は一緒に仕事をしないメンバーが集まった機会があった。最初、参加者の表情は硬く、難しい顔をしている人も少なくなかった。しかし、研修が進むにつれて場の雰囲気は和らぎ、最後には笑顔でハイタッチが飛び交うほどの盛り上がりを見せた。
「楽しい」「仲良くなれる」――そんな体験を通じて、参加者の意識が変わる瞬間にやりがいを感じている。

試行錯誤を重ねたフットサルとビジネスの交差点で見えた価値

岡村は、ほぼ毎週、講師として現場を仕切るだけでなく、研修内容の調整や企業への営業活動も担当する。他に類を見ない研修で、岡村も「ブラインドサッカーは見たこともやったこともなく、素晴らしさを伝える立場になるのが難しかった。初めは台本を暗記して、不安になりながら進めていた」と言う。

「知らないものを売るのは失礼」と感じ、そこから脱却するために、岡村は試合を観たり、大会運営をサポートする仕事を積極的に請け負ったり、小さなことでも行動することで信頼を得る、という姿勢を続けた。「特別視せず、一人の人として接する」と、年下で視覚障がいのある選手たちともそれぞれが好きな話題をとらえて、積極的にコミュニケーションを取った。「どれだけ『貯信』を作るかが大事だと学んだ。自分が動くことで、選手たちも協力的になってくれるのを実感している」。

このように考えて行動したのは、「フットサルから、それは学んだと思う」。ベテランの態度や行動が、チームの雰囲気に大きく影響するのを目の当たりにしてきた。自身が引退間近の立場になった時に、「引退しなきゃいけない僕が、出たいに決まっているのに、ベンチでずっと声を出して、若手全員に声掛けしていたら、いやでも一体感が出ざるを得ない」と考え、振る舞いを続けた。そして、それはチームの優勝という形で結実した。コミュニケーション、チームビルディングといった研修のテーマは、自身の経験と繋がっている。

オフィスに行く経験さえほとんどなかったため、スポーツ界にはまずいないが、ビジネスの現場には運動に興味がない、体を動かすのが嫌いな人が少なからずいることに驚いた。そして、強く印象に残るシーンがある。視覚と聴覚に障がいがある方や車いすに乗って指も動かしにくい方などが受講した時のこと。「障がいがあるから、じゃあ、どういうふうに周りがやるんですか、とみんな考えてやるんですよ」。選手たちが「そういう障がい者もやれるようにするのが、交わるということなんだ」と言って強い意志を見せ、参加者も考えて動いた。このように様々な現場を経て、「自分の価値観や前提が、全ての人に当てはまるわけではない」と気づいた。

デュアルキャリアを体現する日々で気づく

仕事の傍らで、東京都リーグ1部に所属するクリアソンのフットサルチームでもプレーする。監督を置かないチームで3人のリーダー格の1人を務めながら、コートに立つ。練習は週3~4回で、平日はメンバーの仕事が終わって民間のフットサル場に集まれるのが夜9時になることもあるが、「全力でやり切ることを体現するチームだから、仕事が忙しくても真剣に向き合う人たちが多い」と感じている。夜でも練習できるフットサルだから、デュアルキャリアは可能と考え、自身もそれに取り組む。

また、元Fリーグ選手の肩書きや知名度から敢えて“顔”役を務め、新宿区サッカー協会フットサル委員会として、初心者教室やファン交流会などのイベントも開催。クリアソンでは、アスリートや関わる企業で働く人たちなどを集めて、フットサルで共に汗を流しながら繋がりをつくる「Criacao Amigo」などの活動も行っている。スポーツを通じた新たな繋がりの創出に力を尽くす。岡村は「クリアソンの活動を通じて、選手や社会に新しい選択肢を提供できれば嬉しい」と言う。

スポーツの価値を社会に広げる

クリアソンで働くことを話し合う席で、「今までオカさんがやってきたことをちゃんと言葉にしたり、価値を届けることができると考えたほうがいい」と言われた。岡村は「衝撃でした。それまでは、スポーツだけで食べていくのは難しいし、その可能性がないので、業界を変えようとか、それが社会人としての当たり前だと思っていた」という。

しかし、今は、スポーツで得た経験をビジネスの現場で活かし、スポーツの価値を広める活動に全力を注ぐ。「仕事ではまだ2年目で挑戦が続く一方、フットサルチームではリーダー的役割を担い、お互いに影響し合いながら成長している手応えがある。すべてが繋がっている感じで、仕事に活きている日々。だから、時間が経つのがものすごく早い」と充実した笑顔を見せた。