木村共宏

人事を尽くして天命を待つ

今回はアクションと心構えの話になります。

僕のいた商社では、入社前には何の仕事をするか決まっておらず、配属先は入ってから発表される仕組みでした。もちろん希望する部署になる保証はありません。学生さんがある時期からこれを「配属リスク」と呼ぶようになりました。要は、行きたい部署に行けないかもしれないリスク、ということです。「配属リスク」があるから商社はどうも・・・という声も聞かれました。
でも、僕はネガティブに受け取る必要はないと思っています。気持ちはわからないでもありませんが、そういう考え方では、逆に自分の人生を狭めてしまうと思います。

みなさんは高校生だった数年前と、就活生である現在の自分を比べてみて、多少なりとも考えが「変わった」のではないでしょうか?僕も自分で学生さんに聞きますが、考えが変わったと答える人が多いです。やはり大学に入って成長したということでしょう。では今とは環境の全く異なる社会人になっている数年後、今と考えは同じかというと、多分変わっているでしょうね。しかも過去数年よりも、この先数年の方が環境の変化も大きい分、もっと変わりそうですね。
つまり今の考えはこれまでの経験に基づくものなので、トシをとって経験も豊かになると考えの幅も広がり、変化してくるのが普通です。だからあとで振り返って、あのころはまだまだ甘かったな〜と思うこともありますね。そう考えると、ハタチの自分の了見で30歳の自分の人生を決める必要もないだろうと僕は思います。
例えば就活生が将来を考える際に、役に立つことだけを効率良くやろうという話も聞きますが、実際何が役に立つかは将来振り返ってみないとわからないものです。今の考えで役に立たないだろうと思うものも、10年後の自分が見れば大事だと思うかもしれません。現時点では全てを判断できないということ理解して、なんでも食べてやる、という気持ちが大事だと思います。

かの有名なスティーブ・ジョブズも大学を中退した時に、なんの必要性もないけど興味を覚えたカリグラフィーの授業に出て熱中したことが、10年後に作ったコンピュータの成功に繋がったと言っています。あれがなければ今のアップルコンピュータはなかったということになります。人生、何が役に立つかはわかりません。

僕も会社人生においては、ITビジネス、船舶ビジネス、人事と、かなり毛色の違う仕事をたらい回し的にやってきました。しかもほとんどのケースは、想定外に話が降りてきたものでした。ITと船舶なんて本当に全く正反対という感じでしたが、両方とも今の自分の礎になっています。想定外の話がきた時に、未熟な自分でやるやらないを判断しきってしまわずに、「ああ、神様から今これをやるべき、と言われているんだな〜」と思ってなんでもやってみたのがよかったと思っています。
今の経験と10年後の経験は、自分でつなげようと思って繋がるものではなく、つながる時は自ずと繋がるもので、予測はほとんど不可能です。ただ、点と点が繋がるためには、その時その時、ベストを尽くしておくことが必要です。

「人事を尽くして天命を待つ」という言葉があります。なんの努力もしないで状況に流されるのはダメですが、自分のできることをしっかり頑張ったのなら結果は堂々と受け入れればよいということです。長い目で見ると、そういう結果の積み重ねが嬉しい偶然を生んだりして、豊かな人生に繋がってきます。
配属を例にとって説明しましたが、希望の会社に行けるかどうかも同じです。第一希望を目指して人事(自分のできること)を尽くして、もし第一希望以外の会社に入ることになった場合は、神様が「こっちに行ってみるといいよ」と言ってくれているということです。

繰り返しになりますが、大事なことは今自分の置かれた場所でベストを尽くし、人生の財産を蓄えることです。将来の可能性は今の頑張りから生まれます。10年か20年後、積み上げたものが返ってくるのを楽しみに頑張りましょう。

木村共宏

kimura

工学部卒業後、総合商社にて18年勤務。海外営業12年、人事6年。採用チームのリーダーも務める。2015年に退職し、現在は地方創生、人材育成、各種事業支援等を行う。