Criacao Index ~豊かさの体現者たち~ Chapter6 卓間萌水

2013年より、株式会社Criacaoは新宿に拠点を構え、事業を進めてきました。ここ数年は社員やパートナー、インターンなど共に歩みを進める仲間が急増するとともにクラブ事業部、キャリア事業部、アスリート事業部という3つの柱で仕事の幅も広がり、それぞれの姿が見えにくくなってきました。Criacaoの取り組みを支えて頂いている方々に、もっとCriacaoのことを知ってもらいたい。そんな時、まだ伝えていない姿があることに気づきました。それは、それぞれの人間がどのように歩み、どんな思いを抱きながら、何を実現しようとしているのかです。豊かさを体現する個々の姿を、この“Criacao Index”でお届け致します。

 


サッカーを活用し、新宿の結び目に

卓間 萌水

クラブ事業部の卓間は、Jリーグ参入条件を満たすための手続きや様々な交渉を進めるとともに、クラブが根差す新宿の幅広い人たちとつながり、サッカーを活かしながら協業して課題解決を進めています。総務省から転職した経歴には驚かれることも多いそうですが、そこには一貫した思いがあります。

 

――現在の担当を教えてください

サッカークラブがどうやったらJリーグに上がれるかというところと、新宿に愛され、求められるサッカークラブになるために何ができるかということを考えてやっています。このクラブの場合、単なる試合運営やホームタウン活動というより、「理念をどう具現化するか」が私の仕事だと思っています。

Jリーグに上がるには、「Jリーグ百年構想クラブ」というライセンス制度に対して、クリアしなくてはいけない要件がいっぱいあるので、そのために何が必要なのかを可視化して、戦略を打ち、実行しています。例えば、区役所や区の地域団体の方々とどういう協力関係を構築し、どのような取り組みを一緒にできるのかを検討したり、Jリーグの方々にも、どうやったら東京23区内に要件を満たすサッカークラブを作れるのかなどを相談したりしています。

私が入社する前のクリアソン新宿と新宿の繋がりは、丸山が経営者と繋がっているとか、区サッカー協会代表チームということで知られているとかが中心で、具体的に地域の方々と何かをするには、企画する人、戦略を打つ人、進めていく人が不足しているという課題がありました。

2019年10月に入社してから、まず手を着けたのは、Jリーグに入るために、1年後、2年後に何が必要かとスケジュールに落とし込んで全体戦略を組むことと、それに伴って人員などどんなリソースが必要かを作っていくことでした。その次のひと月で、それを全部行動に移しました。翌年4月から関東リーグが開幕するにあたり、ようやくクラブ事業部〇〇戦略部などの社内組織ができました。

一つ大事にしているのは「Enrich the world.」というタグラインを掲げて、クラブが結び目になって、大都会のど真ん中でいろいろな繋がりを目指して活動することです。東京商工会議所新宿支部という経済団体や新宿観光振興協会、新宿区商店会連合会、東京青年会議所新宿区委員会などとコラボをどんどん仕掛けています。地域の素敵な方に賛同してもらえるとみんなに伝播していただけるので、それが新宿って温かいなと思うところです。まるでクリアソン新宿のメンバーのように活動してくれる方が徐々に増えてきて、有難いです。

その中心にあるのは理念であり、クリアソン新宿が目指している世界観とか、サッカーはあくまで手段で「新宿区から豊かさを提供したい」、「新宿の課題をサッカーを使って解決したい」というところに共感して頂けているところだと思います。東京商工会議所新宿支部青年部から頂いたクリアソン新宿に関する提案の中で、とても大切だなと思ったキーワードが「コミュニケーション」。例えば、就業者と住んでいる人の間、外国籍の方と日本人の間、四谷、落合、歌舞伎町、新大久保、神楽坂など多様なエリアでの間、このような関係にサッカーが介在できる価値があるのではないかと書かれていました。都会で普通に生活しているだけではあまり地域を感じないのですが、サッカークラブに関わることで一気にステークホルダーが広がって、それが本当に楽しいです。

◆この方向性間違ってないな

――思い出深い仕事の場面を教えて下さい

2020年10月4日、関東リーグ最終節の「WE LOVE SHINJUKU! MATCH with SHINJUKU POWERS」というイベントです。コロナ禍で、新宿で活動している人たちも本当に苦しくて、いろいろあった中で、自分が入社して1年の成果を試す場でもありました。最初の企画は、コロナ禍で全部吹き飛んでしまい、「今の新宿に対して何ができるのか」と社内で議論したところ、「やっぱり新宿という街の元気がない」とか、「歌舞伎町ばかり取り上げる連日の報道の影響で、新宿が悪者みたいになっている」とか、そのような意見が出ました。そこで、まずは、私たちが「新宿大好き」と言うことが重要ではないか、そこから先に、私たち以外にも「WE LOVE SHINJUKU」という言葉を使ってくれる人がいたらいいなという想いで、企画しました。

地域の方が「こういう企画をクリアソン新宿のみんなが考えてくれるのが嬉しい」となってくれたことが、「良かったな。この方向性間違ってないな」と確かめる場所になったし、選手も「新宿のために」と意識できたというのもあり、地域の方が「すごくいい試合だった。来年も応援するよ」と言ってくれました。毎年こういう企画を継続して、いつか大きいスタジアムでJ1の試合をする時にもこういう企画をしたいなと思いました。

――大変だった仕事や自分で新しく開拓した仕事はどんなことですか?

やっぱり、Jリーグに入るために必要なことがすごくたくさんあって、それを一つひとつ積み上げていくことを、「クリアすればいいや」と思うのではなくて、理念と両軸で考えながらすることが大変です。素敵な人に繋がって、その方からまた次の素敵な人に繋がってという数珠繋ぎ的なことを一個一個地域でやっていくというのが大変でもあるし、すごく地道ですが、それをやらないと難しいと思っていて。例えば、「どうやったら、区役所の方々が自信を持ってクリアソン新宿というチームを応援できるのだろう」と考えると、やっぱり地域の方から応援されていてほしいとなると思います。

達成した時に、理念に対して、「これでよかったのかな」とならないようにやっている感じです。簡単に達成しようとすると、お金かければできると思うのですが、クリアソンはそれを良しとしないし、クリアソンのメンバーも、「理念と要件」これがやりたくて入っている人が多いと思います。

――お客様から教わった大事なことは何ですか?

新宿の地域の方から教わったことで言うと、「どうやったら新宿をよくできるのだろう」というのをみんな真剣に考えていて、突き詰めていることだと思っています。「サッカーに当てはめたら、これができるよね」と、どんどんその人たちから教わっている。新宿への愛は、その人たちから常に教わっている。

新宿をよくするというのは、何を優先するのかという難しさもあります。外国籍の方から行くのか、子供たちから行くのかなどを考えると大変ですが、サッカーでできることをプロトタイプ的にやっていこうと思っています。

――仕事でのマイルールは?

一つは、実施していることに対して、それが理念に合っているかを必ず確かめることです。もう一つは、達成するときに何が必要なのか逆算して考えることです。この二つは前職から変わらず、ずっとやっています。

総務省では、「国民にとっていいことになるのか」と考えて、やろうと思った時に何がいつどうやったらその政策が実現できるのかを考える仕事だったので、今はそれを新宿のサッカークラブが実現するという時にクリアソンが体現したい理念、社会を豊かにするということに対してどうなのかというところと、クリアソンがやろうとしていることに、どういうステップがいるのかと考えてやっています。

◆クラブは公共性とプライベートの結び目になる

 

――Criacao入社前にしていた仕事は?

総務省は若手のジョブローテーションが1年に1回程度あるので、色々な仕事をさせていただきました。まず、1年目は岩手県庁で一年間、市町村と向き合う仕事をしました。鹿児島県出身なので、当初は岩手のことを何も知らなかったのですが、当時はちょうど震災から5年で、復興に全力で取り組む市町村の財政面の支援をお手伝いし、地方創生が本格化する頃だったので、地方創生交付金や地域おこしを33市町村の役場の人たちと議論してどうするかを考えていました。東京に戻ってきてからは、消防防災の仕事を消防庁でしていて、危機管理、避難勧告の基準の検討や、熊本地震を踏まえて防災対策をどう見直すかの検討にも携わらせてもらいました。

転機となった仕事は、社会人4年目から若手として携わった2040年の自治体を考える仕事です。総務省は地域とか地方自治体と国の関係性を取り持っている役所なので、2040年に人口減少と高齢化が進んだ時からバックキャスト的に地方や地域がどうなるのかということを考えていました。

私の中では今の仕事にも繋がっていると思っていますが、それを言うと「どういうことなのか?」といつも言われます(笑)。noteにも書いているのですが、総務省は地域住民や社会の持続可能性に対して、制度や社会の仕組みから解決するところで、それに対してクリアソンは現場から解決するところです。霞が関が制度を変えることで現場が変わることはいっぱいあると思っているのですが、制度で解決できないけど、地域から解決できることもいっぱいあるなと思っていました。「サッカークラブがパブリックとプライベートの結び目になるのではないかな」というのは結構思っていて、自治体や行政がこうやります、というのではなくて、企業でもなくて、その間みたいなものを作れる組織なのではないかなと。2040年の自治体を考える仕事で、公共とプライベートセクターなどが混ざり合って解決していくことが今後の未来で必要だということを学者の方や総務省の方がよくおっしゃっていて、私もビビッと来て、そのミクロ感に惹かれていました。

 

――Criacaoを知ったきっかけと入社の経緯を教えてください

岩手から帰ってきた時に、誘われてクリアソンのビジネスカレッジに何回か行くようになって、それから、サッカー観戦も好きだったので、クリアソン新宿の試合を見に行くようになりました。

ある時、関東リーグ2部の駒沢公園での試合に行って、200人くらいのファンが真剣にクリアソン新宿のことを応援していました。そこにはとてもEnrichな環境が広がっていて、ファンが「よし、明日から俺も頑張ろう」と言って帰る様子で、「このコミュニティ、めちゃくちゃ素敵だな」と思いました。それでいろいろ調べたら、新宿というコンセプトで、このコミュニティが1,000人、10,000人となっていったら、官民関係なくいろいろな人が混ざり合って、現場から素敵な社会を目指そうみたいな活動ができるのではないかなと思いました。

丸山に2019年5月か6月に「クリアソンに来ないか」という話をもらって、行くか、総務省に残るかで悩みました。丸山から、クラブで実現したいことを聞いた時に、私が考えていた、いろいろな人を繋げて、いろいろな人が混ざり合って、地域から価値を発信することにぴったりだなと思いました。唯一の不安は、ビジネスをしたことがなかったことですね。

総務省での仕事の特性として、地域の人や地域の課題を考えていること。もう一つは、マルチタスクなので、ステークホルダーが多くいる中で何かをするということをしていました。サッカークラブって意外とステークホルダーが多いので、区や地域の方やJリーグやパートナーなど、いろいろなことを調整して結論を出していくところは、今の仕事にかなり生きていると思います。

 

――あなたの考えるスポーツの価値を教えて下さい

「人と人を繋げる」ことが、価値だと思っています。こんなスポーツ経験がなく、体育会でもない私でも関われます。成山監督や丸山が、「サッカーは手段だ」って言いますけど、サッカーを活用して、何かを繋げたり、何かを提供したりするというところが、スポーツの価値だと思っています。無条件にいろいろな人に繋がれる、言語とか、障がいとか、国籍とかを超えて繋がれるというイメージです。みんなで感動して繋がるのもそうですし。これは制度ではできないですからね(笑)。

 

――Criacaoを通じてどんな豊かさを創造したいですか

新宿というのは多様な顔があって、そこでクリアソン新宿が繋がりや結び目になったり、運動機会がない子どもたちにきっかけづくりをしたり、新宿が掲げている「新宿力」に対して、それまで繋がったことがない人が繋がって、豊かな社会をつくりたいなと思ったり、豊かさってこういうものだなと話し合えたりとか、そういう場所を作れたらいいな、というのが私の最終的な目標です。

やりたいことは、いっぱいあります。例えば、スタジアムで試合の前後に新宿の子どもたちが思いっきり走る場所を作りたいとか、地域の商店街や街の人たちがスタジアムの周りを囲むようにブースをたくさん作って、スタジアムが一つの新宿を体現する場所になるとか。地域のお祭りやイベント、授業などにクリアソン新宿がどんどん価値を伝播していくこともできると思っていて、相手の強みでコラボができるといいなと思います。今は、理想をいろいろな人にぶつけまくっています。やりたいことはいっぱいあるけど、身体が足りないですね(笑)。