世界チャンピオンや日本代表を経験した講師も 「子どもに夢を見てほしい」スポーツ教室/幼児スポーツプロジェクト

 世界チャンピオンや日本代表などを経験してきた各界のトップアスリートが、子どもたちにスポーツを教える―――。そんなスポーツ教室を、社会福祉法人東京児童協会さんと共同で行っています。この『幼児スポーツプロジェクト』に始動から携わり、現場を見てきた弊社社員の土田雄弘に、このプロジェクトの目的と実態をお聞きしました。

 

土田雄弘(つちだ・たかひろ)

1983年8月:北海道函館市生まれ
1999~2002年:北海道網走南ヶ丘高校
・サッカー部に所属
2002~2006年:国士舘大学体育学部体育学科
・鶴川サッカー部に所属し、3年次に副代表を務める
・4年次にフットボールチーム Criacao Shinjukuの初期メンバーとなる
2006~2009年4月:株式会社コムスン
・訪問介護、訪問入浴事業所の所長などを経験
2009年5月~2015年3月:株式会社イーウェル
・福利厚生アウトソーシング事業のシステム部門に従事し、保守から開発まで幅広く従事
2015年4月~:株式会社Criacao入社

 

「子どもたちに夢を見てもらいたい」

 

『幼児スポーツプロジェクト』はどのようなプロジェクトでしょうか

「社会福祉法人東京児童協会(以下、東京児童協会)さんとの共同プロジェクトです。日本代表や世界で活躍しているアスリート、もしくは引退されたアスリートが講師になって、東京児童協会さんが運営している保育園、こども園に向け、スポーツ教室を開いています。昨年度から始まりました。昨年度は6種目でしたが、今年度は12種目を行う予定です。東京児童協会さんが運営している園の中で、年長児がいる、23区内に位置している、という条件を満たしている16園を6グループに分けて、実施しています。最も少ないグループで35名ほど、最も多いと60名ほどの園児がいます。一回ごとに各園の担当の先生方から、メールで要望をいただき、それを基に改善してより良いものを提供できるようにしています」

 

2019年度ある園のスケジュール

種目 講師 講師の主な経歴
走り方教室 伊藤友広 アテネオリンピック4×400mリレー4位入賞
バスケットボール 岩屋睦子 アトランタオリンピック日本代表
萩原美樹子 (公財)日本スポーツ協会公認上級コーチ
フットサル 北原亘 元日本代表キャプテン
チアリーディング 石田真紀 2006~2009年世界最高峰NFLのSan Francisco 49ers チアリーダー 『Gold Rush』の一員として活動
ラグビー 齊藤祐也 2003年日本代表としてW杯出場
10 体操 亀山耕平 2013年世界選手権種目別あん馬で金メダル獲得
11 ダブルダッチ REGSTYLE 2017~2019年DOUBLE DUTCH CONTEST WORLD(世界大会)優勝
12 カバディ 下川正將 2016年日本代表キャプテンとしてW杯出場
1 空手 菊野克紀 極真空手 全関西大会 無差別級 優勝

総合格闘技 第5代DEEPライト級チャンピオン

2 アルティメット 森友紀 2012年選手兼監督として世界選手権に出場し優勝

(※敬称略)

なぜ、このようなプロジェクトをしようと思ったのでしょうか。経緯を教えてください

「2018年5月に、株式会社アポーメンテナンスさんの古屋勇多代表取締役が、弊社代表取締役の丸山和大に東京児童協会さんの菊地元樹さんを紹介してくださったことがきっかけでした。菊地さんと丸山はその場で考えを共有して『子どもたちに夢を見てもらえるようなプロジェクトをしたい』と意気投合しました。その後話がまとまり、一度トライアルを行いました。そこでの園児や先生方の反響がすごく良かったので、実際に同年10月から行うことになりました。

私自身も子どもの頃に、サッカー教室でプロサッカー選手に教えてもらったことがあります。私の記憶の中では、その教室を通して上達したか、ということよりも、プロ選手と一緒にサッカーをすることできたということが印象に残っています。同じように、この『幼児スポーツ』はトップアスリートに実際に教えてもらうことで、その思い出が子どもたちの原体験になって、ゆくゆくは将来の夢につながっていく。もしくは、この機会がきっかけでスポーツや運動をするようになってくれたら嬉しいです。

バスケットボール教室で講師を務める(左から)萩原美樹子さん、岩屋睦子さん

 

また、子どもたちの『遊び』の代わりに『スポーツ』を提供したいです。昔は遊びを通じて、いろんなことを身に着けてきました。年齢関係なく子どもたちが公園で遊んでいることが当たり前で、ルールが分からなければ、上級生が教えてくれました。幼い頃からそういった遊びを通して、社会性を身に着けることができていました。ですが、現在は、子どもたちが十分に遊ぶことができる環境が少なくなってきたと思います。そんな中、他に置き換えられるものが何かとなった時、それがスポーツだと思います。社会性を学べる要素がどんな競技にもありますし、各スポーツにはそれぞれの特徴があります。そこから学べるものがたくさんある。まずは子どもたちがスポーツできる機会を提供するとともに、その中で社会性をはじめ、さまざまなことを学ぶ機会を提供したいと思っています」

スポーツを通して社会性を育む

 

昨年度、今年度と実施してきましたが、どんな反響がありましたか

「小学校の環境に慣れるまでに、半年ほど時間がかかる園児が毎年一定数いらっしゃるそうです。ですが、昨年度、半年間『幼児スポーツ』を実施した結果『慣れるまでに時間がかかった園児が相当減った』と園の先生方から伺いました。このプログラムを通して『他の園の園児と初めて会った日にチームをつくって、作戦を立てたり、一緒にスポーツをしたり、ということを何回か経験したからではないか』と。昨年度始まったばかりのプロジェクトですのでまだ何とも言えませんが、こういうところもスポーツの醍醐味ではないかと思いました。

 

フットサル教室で、講師の北原亘さん(中央右)とフットサルをする園児

 

 こんなことが発言できるのかというような、園児の意外な一面を見ることもあり、学ぶことが多い機会になったと先生方からも言っていただきました。他にも、昨年3月の卒園式の時に『体験したスポーツのプロ選手になりたい』と発表してくれた園児がいたそうです。保護者の方からも、スポーツ教室があった日は帰ってきて『今日はこんなことがあって、○○が楽しかった』と子どもが言ってくれるようになった、というお声もあったそうです。自分の子どもはどのスポーツが得意なんだな、ということを知れる機会にもなっています。東京児童協会さんが運営している園に通っているだけでいろんなことを知ることができるため、他園との差別化にもつながっています」

 

 

園児の表情が変わる瞬間に出会える

 

昨今は自動車事故がニュースになることも多いです。スポーツ教室までの移動はどのようにされているのでしょうか

「東京児童協会さんと相談し、グループの人数規模で変動はありますが先生方は一園に必ず2名以上に来ていただいています。各園から会場まで専用バスを使わない場合に、公共交通機関を利用したり、大通沿いを歩いたりする時は十分な注意が必要になります。本当に責任重大なことだと思います。移動のこともあるので、なるべく同じ区にある園同士を同じグループにしています。

先生方の移動には数回しか付いて行ったことはないですが、園児全員に目が届くように先頭と最後尾には先生が配置されていて、信号を渡る時は青信号でも一回止まって、信号の前で並び直して、次の信号で渡ります。必ず二人一組で手をつながせて、一人で何かをする園児が出ないようにしていました。また、出発前と到着後には必ず点呼を取っています。とくに着いたあとは目視で園児を確認している。絶対にいると分かっていても、確認されていますね。先生方は数えたらキリがないくらい多くのことに気を付けています。すごく責任感を持ってお仕事されていると、一緒に歩いただけで感じました」

走り方教室にて、伊藤友広さん (中央)と園児

 

プロジェクトを進めていく中で、課題はありますか

「子どもたちが理解しやすい言葉で説明することです。ある教室で講師が『一旦、休憩にします。水を飲んだら、もう一度ここに戻ってきてください』と園児に伝えました。ですが、それを聞いた園長先生が『この後も二人組で行いますか?それならこう伝えた方がいいです』と言って、園児に『みんな、水を飲んできたら、今手をつないでいるお友達と一緒にここに戻ってきて座ってください』と伝えていました。最初の講師が言ったことで分かる園児もいるけど、それだけでは伝わらない園児もいます。時間がない中で、どこまで丁寧に伝えるべきなのか。どういう言葉で伝えれば園児は理解して動けるのか。考えながら伝えています」

 

 

土田さんはよく現場に顔を出されているようですね。なぜでしょうか

「毎回行くと、顔を覚えてくれていた園児が『こないだのあれできたよ』と教えてくれたり、『今日は何ができるの?』と聞いてくれたりした時、こういう機会をつくってよかったなと思えます。プログラムの中では、園児たちは新しいことにチャレンジしていって、時にはさまざまな壁にぶつかります。そして、それを乗り越えられた時、表情が変わります。その瞬間を現場で見ることができる。それは私自身のモチベーションにもやりがいにもつながっています。現場にいるからこそ分かることがあると思っています」