【大学サッカー界 屈指の指導者】成山監督と吉村教授が語る 第2弾~スポーツの教育における可能性 vol.5~

Criacao Shinjuku のジュニアユース設立に向けて、社会人トップチームCriacaoの監督を務め、ジュニアユースCriacaoの総監督を務める成山一郎と、ゲストとして順天堂大学のスポーツ健康科学研究科教授であり、スポーツ健康科学博士・スポーツ健康科学部 副学部長を務められている吉村雅文氏、の二人の対談を行いました。引き続き、今回は第2弾「スポーツの教育における可能性」の中の「8)2人にとってのサッカーの面白さは?」についての対談をご紹介いたします!
(ファシリテーター:株式会社Criacao代表取締役・丸山

2.スポーツの教育における可能性

5)2人にとってのサッカーの面白さは?

丸山サッカーの面白さは2人の中にはどういう風に見えているんですか?

吉村: 例えば、自分は決定的なミスを犯してしまったけど、チームがサポートしてくれたおかげで大逆転できたとか、技術的にはイマイチだけど、運動量でチームに貢献したとか、チーム全体を機能させる為に戦術の徹底をはかったなんていうのは素晴らしいサッカーの特性かもしれないですね。補完する、僕はこの表現が大好きなんです。かつて留学していたときに、色々とお世話になったオランダ人が「サッカーはミスのスポーツだ」と表現していました。サッカーがミスのスポーツだと言うことをキチンと理解することで、サッカーの個人のレベル、チームのレベルは間違いなく向上するとよく言っていました。

丸山:なるほど。成さんは、何でサッカーなんですか?

吉村:あとJリーグの下部組織のユースに行った理由も教えてほしい。

成山:丸山さんの質問の答えとしては、こんな自分でも活躍できたからですね。僕も色んなスポーツが好きだったんですけど、残念ながらチビで足が遅くて力がなくて、バスケやっていたときも大きい人ばっかりだし、野球やっても速く投げる人もいれば飛ばす人もいるので、陸上やっても僕より速い人たくさんいたし、サッカーは僕でも活躍できたから、たぶん吉村先生はサイズもあるし、いいじゃないですか。こんな僕でも活躍できたのがサッカーでしたね。

吉村:Jリーグのユースに入ると寮に閉じ込められて、決められた高校行って、練習たくさんやらされて、勉強しないといけないときに勉強しないで、普通の高校生とは随分違う生活を何で?笑

成山:それはおっしゃる通りで、高校の時に1回心は折れましたね。小学校、中学校の時が1番サッカーが楽しくて、高校の時は専門的に戦術を「こうしたほうがいい」「どううまくするか」のように与えられてばかりで。

中学までは指導者がいるかいないかわからないような感じで、週に2、3回大人の人たちとフットサルというか室内でサッカーをやるんですよ。中学生チーム対大人チームで戦って、勝ったら残れて負けたら出ていく。1時間半それの繰り返しなんですよ。とにかく自分たちが勝ってサッカーをしたいから、勝つのにどうしようか考えたりだとか、負けた日帰って悔しいから、次の日勝つために練習をしたりとかですよね。だけど高校はとにかく与えられすぎて、それがもう窮屈で面白くなかったですね。自分は身体能力がないから、ずる賢くやってうまくなるタイプだったんですけど、そういうのがなくなった世界が広島ユースというかプロに近づけるための広島ユースの鍛え方というか。もちろん中には、身体能力もあり頭のいい選手などは上に行っていましたけど、僕みたいにずる賢さだけで身体面が足りない選手は入れなかったので、そこはやっぱり苦しかったですね。

大学サッカーでは指導者がいないので、先輩たちが考えてやるじゃないですか。おかげで大学でまた息吹き返したというか、結局サッカーはそこに魅力が詰まっているのではないか、自分で考えて自分で決めて、そうすると面白いのではないのかと。背が大きくても小さくても速くても遅くても右利きでも左利きでも、誰でも活躍できるのがサッカーの良いところではないかと思いますけどね。

吉村:でも指導者は上手いか下手かでしか選んでないよね。多くの指導者が、どんな選手でも活躍できる可能性があるって思っているなら、試合にどんどん使ってやればいいじゃん。でも指導者は単純に自分の価値観だけで、上から11人選んでいる人が多いように思います。

成山:僕もやっちゃいましたね。

吉村:勿論試合は、勝たないといけないし、勝つためにやっている。でも多くの指導者は、「勝つために」と「成長させるために」の方法が一緒に考えられない指導者が多いのでは無いかと感じています。「成長させることと勝つこと」を一緒に考えながら指導できた方が、選手はきっと頑張るだろうし素敵じゃないですか?選手も自分が試合に出ないと、自分自身が活躍できる場面を見つけることもできない。選手の未知なる可能性を追求してほしい。

成山:私の1つの考えなんですけれども、ちゃんとしたベストメンバーを提示されて、悔しくて努力することは必要だと思うんですよね。試合の勝った負けたということはもちろんあると思いますが、例えばライバルに勝つか負けるか、それに対しての弱い自分に勝つか負けるかとか、そういうところもすごく大事になると思うんですよ。

丸山:先生と成さんは、根本は同じようなことを言っていますよね。チーム内にも変化を起こして、それ自体の全てがサッカーという感じで。成さんは強い11人揃えても、それより強い相手が出てきたら、そこに変数が入ってきたりするじゃないですか。その一方で先生は、その凸凹を楽しむというか、意図的に全選手に変数を感じさせられるようにされるアプローチですよね。お二人の共通性と色の違いなどが出ているんじゃないかなと思いますね。

成山:スポーツで点数入って勝ちというようなスポーツだから、それは活かすべきですよね。それが醍醐味というか、点数が入っても入らなくてもということであれば魅力は感じなかったし、サッカーで勝った方が面白いということがあったり、それはすごい大事だなと思いますね。先生のトレーニングを見ていていいなと思ったことが、本当にサッカーの練習なんですよ。味方がいるし、敵がいるし、ボールがあるし、ゴールがあるし、勝ち負けがついていて、負けたら罰ゲームみたいなことがあったし…

吉村:負けたら罰ゲーム、「腕立て500回(笑)」よく言ったけど、誰もやってくれなかったなぁ「ちゃんとやれよ!」(笑)

成山:だから選手ってムキになるというか、サッカーをやっている人数とかコートの大きさではなくて、サッカーの要素が全部詰まった練習をやっているから、もちろんうまくなると思うし、1分でハァハァなるんだろうなと思います。

吉村:大学生だし、高校生、中学生とは違うところはあるかもしれないけど、プロに行くか行かないかといったそういうレベルの学生たちだったから、ひたすら本番のサッカーに極力近づけて、サッカーの全ての要素が入って、もちろんフィジカル的なことも含んだ練習を心がけて行いました。あとはタイミングとか選手のプレーの質や感覚が選手同士、理解し合えるようなトレーニングを工夫したつもりです。

成山:ただサッカーをやらせるだけではなくて、その中に今日の練習の目的がありましたよね。それはとても良いなと思いましたよね。

吉村:ありがとうございます。

丸山今の大学サッカーに対して思うこと、もっとこうなってほしいということは何かありますか?

吉村:この前女子の試合を30~40分くらい見ましたが、男子のサッカーは、忙しくて最近ほとんど見てないですね。

成山:僕も離れて3年くらい経ってしまいました。僕が知っている限りの大学サッカーは良い方向に向かっているのではないかと思います。なぜかというと、学生に主導権が渡されるようになってきた。もちろん監督がいてコーチがいて戦術とかメンバー交代とかやっていいんですけど、だけどそれだけではないじゃないですか。サッカーとかチームに対して、選手が自分たちで関わり始めている。そういうのは僕はすごくいいんじゃないかなと。プロは全部サッカーだけに集中できるように与えられている。中学生や高校生にチームのマネジメントとか難しい複雑な人間関係とかを投げてしまうのはちょっと難しすぎるかもしれない。だけど、大学にはできる。むしろ大学にしかできないことを一生懸命大学の人たちが考えて、特に学生が一生懸命考えて大学サッカーや体育会の価値というものを形に表してくれているのではないかと、僕は好印象タイプですね。

吉村:僕はようやく、大学サッカーにおいてもチーム理念とかビジョンとか哲学とかが非常に重要なんだということに気が付いているチームが増えて来たのでは無いかと思っています。僕もたくさん見ているわけではないけど、中央大学の学友会の選手達が「先生来てください」って言って話に行ったときに、選手皆が何か気がつこう、何か吸収しよう、成長するきっかけを持とうとしている姿勢をヒシヒシと感じました。丸ちゃん(弊社 丸山)の影響もあったのかなとは思うけど。チーム理念とかチーム哲学がベースにある中で組織を考えていかないと、組織はうまく機能しないし、組織が機能しないとみんなの成長は期待できないし、80人いる組織に入り、4年間ここでサッカーやってきてよかったなと思えないと意味は無いと気づき出しているのではないかと感じました。その反面、とにかくチーム目標がインカレ優勝、リーグ戦優勝、総理大臣杯優勝、勝つ、そこを全面に押し出して運営しているようなチームも存在します。表向きの発信はいいんですけど、本当に部員全員がそう思ってやっているわけないだろうと思ってしまいます。

大学サッカーの価値を真剣に考えることが必要な時代になったのではないでしょうか?今話題にもなっている日本版NCAAとかが、きちんと整備され統括の組織ができてくると、哲学や理念、ビジョンといったところは間違いなく要求されるだろうし、どんな姿勢、どんなコンセプトで体育会の学生たちを指導するのかを問われる時代になってくると思います。

大学サッカー、大学スポーツは今から大きく変わっていくだろうと思います。スポーツ庁が舵取りをやっていますけれども、スポーツ庁だけでは難しいですよね。連携が必要だと思います。結束できる大学が、ただ単にスポーツは勝ち負けじゃないぞ、といったところから人材育成し、スポーツの価値とその競技の価値を追求していくような姿勢と動きがないと大学スポーツは変わっていかないと思いますね。例えば慶應、早稲田、関西、関西学院、この辺の大学がリーディングし変化し、東大、法政、明治あたりが結束して、勝ち負けだけじゃない、もっと優秀な大学生、もっと魅力的な大学を作っていこうとスポーツを通して活動を積極的に行うような人が出てきたら、もっともっと変わっていけるし、もっともっとサッカーから学び成長していく学生が増えてくるんじゃないかと思いますね。

丸山:こうやって先生みたいな方が、成さんがいてなどのこういう輪が広がっていけばもっと素晴らしい世界が実現していくのかなと思いますよね。

吉村:僕をどこかの大学の総長くらいにしてくれればメッチャ頑張りますよ!(笑)