弱い自分に負けないように常にやる Chapter10 成山一郎

2013年より、株式会社Criacaoは新宿に拠点を構え、事業を進めてきました。ここ数年は社員やパートナー、インターンなど共に歩みを進める仲間が急増するとともにクラブ事業部、キャリア事業部、アスリート事業部という3つの柱で仕事の幅も広がり、それぞれの姿が見えにくくなってきました。Criacaoの取り組みを支えて頂いている方々に、もっとCriacaoのことを知ってもらいたい。そんな時、まだ伝えていない姿があることに気づきました。それは、それぞれの人間がどのように歩み、どんな思いを抱きながら、何を実現しようとしているのかです。豊かさを体現する個々の姿を、この“Criacao Index”でお届け致します。


Criacao Index ~豊かさの体現者たち~

Chapter 10

関西学院大学体育会サッカー部監督として、2015年に大学サッカーで四冠を達成した成山は、2018年に入社し、Criacao Shinjukuの監督を務めて4シーズン目となります。仕事や学業をしながら、サッカーに覚悟を持って取り組む選手、スタッフと共に戦う日々の中で想うことをシーズン開幕前に聞きました。

――現在までの担当を教えてください

仕事の内容は、クリアソン新宿の監督なのですが、みんなで理念を体現して、目標を達成するために、練習をして、試合をして、それを1年間繰り返すということです。現場を任せてもらっているので、どんなサッカーをするのかを決め、そのサッカーで試合をするとどうなるのかからスタートしていきます。試合をして、ビデオなどで振り返り、それを元に練習メニューを決めて、練習をやって、相手チームの情報も入れて、試合をして、と毎週繰り返していくのが仕事です。

パートナーの皆様には、開幕前に今年のクリアソン新宿がどんなことをするのかをプレゼンテーションする場があったり、シーズン終了後にご挨拶に行きますし、新宿区長や新宿区の地域の方にもご挨拶に行きます。きちんとサッカーを見せられるかどうかが自分に与えられた一番大きな役割ですし、それで結果を出して、みなさんに何かを感じてもらうのがメインなので、シーズン中はそちらに注力できるよう、かなり気を遣ってもらっていると思います。新宿区の子どもたちに対するサッカー教室のような活動もやらせてもらったりしますが、それも全部、クリアソン新宿の理念や目標に繋がっていると思っています。入社してから、ぶれることなく100%チームですね。

――思い出深い仕事の場面を教えて下さい

試合で二つあります。一つは、2018年に東京都リーグ1部2位で関東社会人大会に出場した時の準決勝。勝てば関東リーグ昇格が決まる試合が、やっぱり印象深いですね。昇格がほぼ決まったことよりも、味の素フィールド西が丘はピッチとスタンドの距離がすごく近いこともあり、ピッチで戦う選手とスタンドで応援してくれる人の垣根がなく、スタメンとベンチメンバー、Criacao ShinjukuとProcriar、そういう垣根を超えて一体となって一つのことを成し遂げていくという、まさにクリアソンらしさが感じられた試合でした。

もう一つは、昨シーズンの9月に栃木シティに負けて、昇格という目標がもう無理になってしまった試合です。みんなベンチでうなだれていましたし、泣いている選手もいました。自分の力が足りないと誰の役にも立てないというのを痛感したし、悔しかったし、申し訳なかったし、情けない気持ちになりました。だからこそ、改めて「今年、頑張らなくちゃ」という原動力になっています。

――大変だった仕事や自分で新しく開拓した仕事はどんなことですか?

大変な仕事とは少し違うかもしれませんが、毎回の練習は真剣勝負のつもりで臨んでいます。選手もスタッフも、仕事や学業に励みながら、さらに家庭がある人もいて、その上でサッカーをやっています。それでも、グラウンドで死にもの狂いで、全力で練習をしてくれる。そういう選手たちに「もっとできるだろう」と要求し続けるには、こちらもそれ相応の気合の入った状態でなければ、真剣さに負けてしまいます。

クリアソンには理念や目標があって、そこを再確認するのはもちろん、自分のやりたいこともあるので、いつも忘れないように思い出してから練習に入ります。練習前にすごくレベルの高いサッカーを見ることや、練習場まで電車で移動する時に感情が高まるような、困難を乗り越えて何かを果たした人の本を読みながら行くとか、自分の志を熱くさせてくれるような何かをしています。

◆応援が人の可能性を引き出してくれる

――お客様から教わった大事なことは何ですか?

「お客様」をチームメンバーやパートナーの方々に置き換えさせてもらうと、メンバーからはいつも、覚悟の大切さをすごく教えてもらいますね。仕事して、勉強して、学校行って、その上でわざわざサッカーして、その言動を見たり、叩き出してきた結果を見ていると、本当に覚悟の決まった人間というのは大体のことはできるんだなと思います。

パートナーの方々からは、コロナで本当に自分たちもきつい中でも、クリアソン新宿のことを信じてくれて、期待してくれて、応援してくれているというありがたみを感じ、それがすごく人の可能性を引き出してくれたり、諦めそうになることを諦めずにできるようになりました。ここ最近のクラブを取り巻く事情、いろいろな人たちや団体が応援して下さるようになりましたし、新宿区との連携やJリーグ百年構想クラブのところもそうです。

栃木シティに負けた次の試合が「WE LOVE SHINJUKU ! MATCH」で、関係者の方々にスタンドに入ってもらったんですが、あの時はどう考えても対戦相手の流通経済大学ドラゴンズ龍ケ崎が強かったんですよ。先に1点取られたものの、ピッチの選手からは、スタンドにいる人たちや、YouTube Liveで繋がっている人たちの期待や応援に応えたいという想いがひしひしと伝わってきて、本当に逆転できました。期待する、信じる、応援する、そういうことは本当に人間の力を引き出すなと、パートナーの方々に教えてもらいました。

――仕事でのマイルールは?

抽象的な言葉になりますが、「弱い自分に負けないように常にやる」ですかね。練習でもみんなが気合を入れて集まってくるから、少しでも情が入って「これくらいの練習でいいか」と自分に負けてしまったり、もっともっとと求める時に選手の顔色を見て遠慮してしまうと、その瞬間に強いチームになるチャンスを逃してしまう。それは結局、みんなのためにならないし、チームの結果も出なくて、悲しませてしまいます。

試合になると、自分がやることは決断することです。決断するのが怖い時もあるんですが、迷わせるような、不安がらせるような弱い自分に負けないようにするのがマイルールと言うか、ちゃんとしようと思うところですね。

これを思った最初のきっかけは、大学の監督をしている時に全国大会で経験した初めての決勝の舞台でした。観客席は満員、知っている人だらけで、メディアも入っていました。0-0できて、勝てば悲願の日本一というところで、「よし、交代しよう」と思った瞬間、「これ、選手交代して、失敗して負けたとなったら、お前のせいだぞ」というのが自分の中に出てきたんです。その間に1点いかれて、結局負けて、本当に申し訳なかったし、大後悔でした。

その後、V.E.フランクルさんの「それでも人生にイエスと言う」という本を読んで、決断は怖いとは書いてありましたが、決断しなかったら、決断しない現実の世界しかない、もしあなたが決断さえしたら、決断した世界がこの現実世界に現れる、と。その翌年も全国大会の決勝まで進めて、試合前に「去年は弱い自分に負けました」と正直にみんなに告白をして、「今年は絶対にこれだと決めたことは決断する。だから、みんなも決勝戦で、緊張とか怖いこともあると思うけれど、決めてやったほうがいい」という話をしました。反省を生かして、先に交代をどんどんしていったら、交代した二選手が1点ずつ取って、初の日本一になって、そういう成功体験をすると、改めて本当に決断はすごいことだと感じました。

――Criacao入社前にしていた仕事は?

プロサッカー選手には実力も努力も足りずになれなかったものの、やっぱりサッカーが好きだったのでコーチがあると思って、大学5年生の時にアルバイト情報誌を見て、会員が2,000人くらいいてスクールを展開している大阪の街のクラブで、時給850円で最初のコーチの仕事をしました。

翌年には、母校の大学の監督に指導者がいなかったBチームの指導をさせてください、とお願いして、お金が出なかったので、仕事は大阪のビジネスホテルで、夜中の12時から朝の7時までフロントをやっていました。仮眠をとって、Bチームの練習を午後3時から5時までやって、また仮眠をとってフロントをやってという生活を続けていたら、さすがに監督が心配してくれて、ジェフ千葉にいる知り合いを紹介してくれました。宮城県名取市に新しく立ち上がるスクールが募集をしているということで、ジュニアユースの監督・コーチと、幼稚園生から小学生のスクールコーチを3年間させてもらいました。そして、高校時代にサンフレッチェ広島ユースに入っていたので、当時の知り合いから尾道市にあるサンフレッチェびんごの監督をしないかと誘ってもらい、ジュニアユースの監督と幼稚園生から小学生のスクールを2年間やりました。

その後、母校の関西学院大学から、強化指定クラブに選ばれたから戻ってこないかと誘ってもらい、2007年からコーチを3年間、監督を7年間の計10年間やりました。プロの世界で監督、コーチをやりたかったから、10年でやめようと思っていて、その3年前から話をしていました。2017年にJリーグ愛媛FCのトップチームのコーチを1年間やったんですが、(日本サッカー協会の指導者ライセンス制度で)S級ライセンスがないと、Jリーグの監督になれない。2年目のオファーも頂いたのですが、愛媛FCでコーチをやりながら、S級ライセンスを取るのは不可能だなと思っていたので、東京に行って取ろうと思った時に思い浮かんだのが丸山さんの顔で、クリアソン新宿に監督がいないと言っていたから、ライセンスを取る片手間になってしまうものの、コーチのようなことをさせてもらえないかなと思い、連絡をしました。

――Criacaoを知ったきっかけと入社の経緯を教えてください

大学の監督の時に、アメリカンフットボール部のヘッドコーチに丸山さんを紹介してもらって、3人で話をしたのが最初でした。平川というキャプテンの時(2013年)でしたね。「体育会の大学生は、スポーツをやりながら就職活動というのがすごく大変だと思うし、不利になって、就職活動が上手くいかないのは、本当に不幸なことだと思う。そういう人たちのお手伝いをさせてもらえませんか」と言ってもらって、就職活動を助けてもらったり、リーダーへのアドバイスや相談に乗ってもらったりで、ずっと大学生の面倒を見てもらっていました。アメリカに一緒に行って、大学やプロの施設、現場を見たこともありましたし、愛媛FCに行ってからも繋がっていた感じですね。

入社の経緯は、丸山さんに連絡をしたら、「みんなで話し合った結果、是非、監督をやってほしい」と言われて、僕も本気でやっていると知っていたので「うーん」と思ったものの、「今までさんざんお世話になってきたから、ここで恩返しできるんだったら」と思って「是非、お願いします」と答えました。

未だにテスト不合格でS級ライセンス講習が受けられていないのですが、おかげでクリアソンに集中できると言うか、両手で丁寧に扱えているので、それはそれでよかったと思っています。

もしサッカーに心があるのなら

――あなたの考えるスポーツの価値を教えて下さい

サッカーの価値になってしまいますが、最初に思い出すのは、僕の結婚式でのおやじのスピーチですね。僕はプロになりたくて、高校1年で千葉県を離れて、全寮制のサンフレッチェ広島ユースに入りました。関学の時も一人暮らしでずっとサッカーで仕事も選んでやってきて、36歳で結婚する時に「15歳から親元を離れて20年間、サッカーを通じて人間が成長する姿を遠くから見ているのが唯一の楽しみでした」と言ってくれました。自分の中でも、サッカーにすごく成長させてもらった人生だなと思っていたんですけれども、親にそう言われて、「サッカーは人間を成長させる力が絶対ある」と確信に変わりました。苦楽をともにするから、一生涯の友だちというのができますし、困難や悩みや葛藤にもぶち当たりますから、仲間のありがたみや乗り越え方や乗り越えた成功体験も味わえます。

 コーチになってから、また違った視点で価値に気付いたのは、長沼健さんという関学サッカー部の先輩であり、日本サッカー協会会長もされた方の著書に書いてあった言葉、「勝利への道の探索が、そのまま人間性の追求につながっていることをいつまでも信じていたいと思う」です。自分の勝手な解釈ですが、サッカーは強い相手、天候、グラウンド状況、審判のジャッジなど思い通りにいかないことだらけのスポーツ。本当に強いチームはその時に、どんな態度をとれるのか、何ができるのかに向き合うことに尽きると思っています。環境や他人のせいにして諦めるのか、諦めない姿勢や言動を見せて、励ましあって、仲間に勇気を与えるのか、それは自分で選べます。サッカーは鍛える力がある。それがうまくいくと勝つチームになるし、さらにいくと人間性が高まる。だから、うまくいかない時の人間の態度の価値のようなところが、コーチとして一つの大きなテーマになっています。

――Criacaoを通じてどんな豊かさを創造したいですか

クリアソン新宿と関わっていると、勝手に豊かになっていったというのがいいと思っています。長沼健さんの言葉の続きで、「人間がスポーツを裏切ることはあっても、正しい意味でのスポーツは、けっして人間を裏切るものではないことを、固く信じたいと思う」というのを読んだ時に、もしサッカーに心があるのなら、人間の成長の役に立ちたいと思うだろうし、見てもらっている人の生きる力になりたいだろうと思いました。そのようなことをきちんと考えているクリアソンが、本当に無我夢中で一生懸命に理念を体現するとか、目標を実現するとか、勝つんだとか。メンバー、スタッフ、チームに関わる人たち、応援してくれている人たち、社員の支えてくれている人たち、クリアソンに関わるみんなが、サッカーの力を信じて、スポーツの力を信じて、そこに関わり続けているだけで、豊かさが広がっていく貢献になればいいなと思っています。

今本当にきつい状況なのに、クリアソンのことを信じてくれて、期待してくれて、応援してくれている人たちの想いに応えたい。行きつくところは、結果を出して昇格ですね。そう強く言える裏側には、勝つことと人間性が高まることはイコールだと信じているから。その人間性が高まるところにクリアソンの理念やあり方が含まれていると思う。だからこそ、昇格は成し遂げたい。それに尽きますね。