「キャリアにおいて譲れない軸とは?」 佐賀大学大学院で小林と卓間が特別講義

7月28日、佐賀大学大学院「キャリアデザイン特論」の最終講義にて、約100名の大学院生に向け、小林祐三と卓間昭憲がオンラインで特別講義を行いました。昨季まで17年間Jリーグでプレーした小林と、学生のキャリア支援の経験が長い卓間が対談する形で「キャリアの軸」をテーマとしました。その一部をお伝えします。

はじめに「キャリアにおいて、自分が生きていく上で譲れない軸とは?」「自分が幸福だと感じる瞬間は?」という問いを、受講生同士で話し合うグループワークを行いました。その後、同じテーマで小林と卓間が対談しました。

自分の頭で考える、余白を作る

卓間:祐三さんの譲れない軸はどんなものですか?
小林自分の頭で考えること、決断することという、めちゃくちゃ普通の軸なんですが(笑)。全て自分の頭で考えて、決断することは結構エネルギーが必要で、特にスポーツをやっていると、人の言うこと聞く方が楽な瞬間はたくさんあります。それでも「なんで自分はこのプレーをするのか」とか、勉強だったら「なんで自分はこの勉強をするのか」を一度、自分の頭で考えてきました。僕は、これができない環境は嫌です。

卓間:具体的な経験はあるんですか?
小林:僕は、高校時代にプロサッカー選手になるために、と自分の頭で考えて、親元を離れてサッカーをすることを決断したんですね。でも、上下関係や練習が厳しすぎて、「これがどこにつながっているのか」「自分の成長の何のためになるのか」と考える余白がない生活を1年ちょっと続けました。その時が、人生で一番幸福度が低かったですね。
僕、サッカーがすごく好きで、毎日サッカーをたくさんできたので、それ自体はめちゃくちゃ幸せだったんですが、その時間は幸せではなくて、余白のなさがそうさせていたんだな、と大人になってから思いましたね。

出口を考える習慣ができる

小林自分の頭で考えること、決断するという軸が足かせになることも、もちろんあるんですよね。今の仕事だと「これをやって」と言われた時にさっさとやればいいのに「どうやれば、どうつながるのか」とか考えてしまうので、どちらが正しいではないと思います。

進路選択では、中学校の時に通っていた公文式の先生との

先生「あなたプロサッカー選手になりたいんだよね?」

小林「なりたいです」

先生「今、Jリーグの下部組織とか、強いチームに行ける可能性ってどれくらいあるの?」

小林「あまりないです」

先生「じゃあどうやったらプロサッカー選手になれるの?」

小林「いやぁ、スポーツ推薦か、推薦で進学ができなければ、勉強で行くしかないと思います」

先生「だとしたら、今の実力だと行けるところはここくらいだよ」

という会話から、渡されたリストの高校が数校しかなく、「勉強しないと、プロサッカー選手になれないんじゃない?」と言われたことを機に、ただ、勉強するだけじゃなくて、どこにつながっているかを自分の中で考えて勉強をするようになりました。

高校の時も同じで、「プロサッカー選手になれなかったら、将来どうするのか」と出口を頭の中で考えながら勉強をする習慣ができました。

卓間:幸福を感じるのはどんな時ですか?

小林自分の気持ちとか、想いが人に伝わった時に、幸福感を感じる、と思います。幸福度を感じる瞬間って、人生やキャリアのフェーズでまちまちだと思います。僕は、今の人生のフェーズでいうと自分の気持ちや想いが伝わった時の幸福度はすごく大きくて、今日も、ちょっとでも皆さんに共感してもらえたり、「そういうものの考え方があるのか」と思ってもらえるとすごく幸せです。

去年、サガン鳥栖にいた時に若い選手が生き生きとしていて、自分の言ったことを吸収してくれたり、自分がキャプテンとして発言したことが伝わっているという感覚があって、それが幸せだと感じていたからです。

人と違うと、チャンスが舞い込んでくる

小林:卓間さんの譲れないものは何ですか?

卓間人と違うことかなと思います。僕、ずっとサッカーをしているんですが、利き足が左なんです。たまたま、小中高大学と同学年で(左利きの選手が)自分しかいなくて、中学生の時に全国大会に出場するようなチームに所属していた時に、実力的には明らかに出られない選手だったんですが、左利きだったので出場できるチャンスが多くて、それがあったから成長できたという実感があります。他にもいくつも人と違うとチャンスが舞い込んでくることがあって、そこから意識するようになりました。

小林:仕事での具体的な事例はありますか?

卓間:前職で、伊藤忠商事株式会社で人事をしていた時の経験でひとつあります。専門性を大事にする会社だったので、自分の部署だけを見る人が多くて、自分は好奇心旺盛だったので他の部署が困っていることを解決したりして、そうすると他の部署の人が仕事をくれて、チャンスができたなと感じました。

小林:卓間さんにとって幸福を感じる瞬間は?

卓間みんなが活躍して喜んでいる時かなと思います。小学校6年生の時に、僕の学年が5人しかいなくて、全校生徒で40人くらいだったんですが、ドッチボール大会とか、スポーツ大会で準優勝をして、みんなが喜んでいるのがうれしかったなと思います。

小林:その人のプロフィールだけ見ても、キャリアの軸はあまりわからなくて、さらに卓間だったら伊藤忠時代、僕だったらプロサッカー選手の時代にその軸が全部作られたかというと全然そんなことはなくて、実は幼少期とか身近なところにヒントが落ちていると思います。

卓間:本当にそうだと思いますね。自分は1万人くらいのキャリア支援をさせてもらっていて、みんな大学出身ですが、全員違いますし、幼少期から小中高で感情が動いた経験から軸ができると思うので、そこと素直に向き合うことは大事だと思います。

最後に2人から受講生にメッセージを贈りました。

卓間:最初には申し上げたんですが、この二人の話が正解とかではないので、共感できるところもあれば、全然共感できないと、どちらの感情もあっていいと思うので、それを自分で受け止めて、咀嚼(そしゃく)してキャリアに生かして頂ければと思います。

小林プロサッカー選手時代にスポンサーとして本当にお世話になった佐賀大学様に、このような形で新しい価値を還元できたことを本当にうれしく思います。皆様にとっては、授業のひとつだったかもしれませんが、僕にとってはすごく大きなことです。また、おこがましい言い方かもしれませんが、スポーツ界的にも大きなことだと思いますので、そんな日を皆様と迎えられたことをうれしく思います。

佐賀大学とは、学生の豊かなキャリアのために、今後も取り組みを進めていきます。