ラグビーから考えるスポーツの本質的な価値とは~Criacao Athlete College vol.21~

アスリート、ビジネスパーソン、教員、学生…様々なフィールドで活躍されている方々が混ざり合い、学び合う事によって、それぞれが新しい価値を創造していくことを目的として開催している Criacao Athlete College

21回目となる今回の講師は、帝京大学ラグビー部や東芝BRAVE LUPUS(東芝ラグビー 部)で主将として活躍された経歴を持つ、森田佳寿(もりたよしかず)さんです。森田さんには、『スポーツの教育的価値』『競技特性から考える、ラグビーの教育的価値』、そして全国大学選手権9連覇を誇る帝京ラグビー部の礎を作った『リーダーシップとチームマネジメント』について、お話しいただきました。

『スポーツの教育的価値』

まず、スポーツは

・目標達成にトライする大量の機会
・多様な課題に取り組む上でエネルギーの根源となる、スポーツが生む強い欲求

を備えており、その中でトライ&エラーを経験することで、「自分で自分を目指すところに運んでいく力」が育まれるとのこと。「目標設定→構成される因子の特定→対策」の考え方や、その中での人間関係の構築力などを、実際のスキルの獲得や目標達成の具体例をもとにお話いただきました。

『ラグビーの教育的価値』

前述のスポーツ共通の教育的価値に加え、競技によって特性に違いがあり、その違いから生まれるそれぞれのスポーツの良さがあります。ラグビーにおいては「One for all, All for one.」という有名な言葉がありますが、今回はラグビーの競技特性についてもう少し深掘りし、そんなラグビーというスポーツから得られる教育的価値を探っていきました。

-ラグビーの競技特性-

1.ポジション別の特性

フィールドに立つ15人には、それぞれ特徴があります。

体の大きな選手、スピードのある選手、司令塔、繋ぎ役など、、各々に求められるプレーは大きく異なります。そんなラグビーという競技では、練習や試合において、互いが目標達成に向けて協力し合い取り組む中で「自分に出来て他人に出来ない事」と、「他人にできて自分にできない事」があるという至極当然なことを強く認識します。そしてまた、各々の特徴、能力、強みを引き出し、上手く掛け合わせていく事が、目標を達成する為の最も効果的な方法なのだと経験します。

「自分は人の協力を必要としており、自分自身も人から必要とされている」という経験は、他者への尊敬自己に対する肯定感を育み、そんな価値観の中で、それぞれの強みを生かし、弱みを補完し合いながら共に目標の達成に取り組む事で、ラグビー選手は『相互理解』の価値を学びます。

  2.裁量の自由

サッカーなども同じですが、フィールドに立っている選手たちは、試合の中で起こる選択や行動に対して、100%の裁量が与えられます。

前項にてラグビーにはポジション別の特性が大きく異なるという話をしましたが、実はポジション毎の配置と役割が明確に分かれているのは、セットプレーの時(反則などによりプレーが止まった後に、プレー再開の為に行われるスクラムなど)だけで、一度プレーが始まると誰がどんなプレーをしても良いのです。その判断が勝利に繋がるのであれば、例えば私のような小さな選手がボールを持って突進しても良いですし、130kgの選手が突進せずにキックを蹴っても良いのです。大事なことは自身に求められる役割を理解しながら、その時々でチームの目標達成の為に自分が出来る最も効果的なアクションを起こす事で、これはフィールド上だけでなく、日々の取り組みの中でも同じです。

決まった役割の範囲の中だけでなく、自分に出来る最も効果的なアクションを選択する事ができ、そしてその判断や行動の効果が、チームの結果に大きく影響を及ぼすという競技環境は、チームに対する自身の『当事者意識』を育みます。

 3.激しいコンタクトを伴う競技特性

大きな体の選手が激しくぶつかり合う。これは分かり易いラグビーの競技特性です。

平気な顔をしてぶつかり合っているように見えるかもしれませんが、どんな選手にも痛みはありますし、少なからず恐怖心を持っています。その恐怖心や痛みの中でも、チームの勝利の為には体を張ってボールを前に運び、自分たちのゴールを守るために、全速力で走りこんでくる大男に立ち向かい続けなければなりません。それらを常に高い基準で実行するためには、自分自身で精神状態のコントロールをする事が必要です。当然ですが、格闘技と同じ様な性質をもつラグビーという競技を行うにあたって、平常時と同じ精神状態の「温度感」では戦えません。もちろんライバルとの試合や、トーナメントの終盤などのビッグゲームでは、モチベートされる様々な外的要因がある為、その温度感は自然と高められる傾向にあります。しかし、激しいコンタクトを伴うラグビーでは、日々の練習の中でも同じ様に、自分で自分のマインドを発奮させなければなりません。その温度感を高めるために、チームでは目標を達成する事によって生み出せる価値の大きさの共有を行ったり、選手自身も、自分の目標や成し遂げたい事、チームに対する責任を強く再認識するなど、それぞれの方法で自分自身をモチベートしてラグビーという競技に取り組むのです。

そのようにタフな環境の中で、覚悟を持った高い基準の取り組みや、パフォーマンスを発揮し続けなければならない環境からは、『責任感』『実行力』が身に付くはずです。

こうした価値を理解し、競技を通じて得た力を社会で転用して活躍できる人間こそが、ラグビーを通して育まれるべき人材だと思います。

『リーダーシップ』

先ずは、コミュニケーション能力の習得の際に用いるゲームを行い、それを例えに森田さんご自身がリーダーシップにおいて大事にされている、下記の3つの枠組みについて説明されました。

 1.Vision「なにを描きたいか」

 2.Share「描きたいものを共有する」

 3.Process「高い基準でエネルギーを費やす」

3つの枠組みそれぞれに、更に幾つもの細分化されたお話があるのですが、この記事ではその中から興味深いお話をピックアップしてご紹介いたします。

1.Vision

ここでもまず始めに森田さんが用意したゲームを行い、Vision(方向性を示すもの)が、「いかに日常の中で見えている景色を変え、組織や個人をモチベートするのか」という事を感覚として学び、その重要性を再認識する事から始まりました。

森田さんの大学時代のVisionは、大学に入って感じられていた下記の3つが始まりだそうです。

・学内でのラグビー部のファンが少ない

・伝統校と大きな人気の差がある

・帝京大学の学生である事を誇らしいと思う一因に、ラグビー部がなりたい

森田さんたちは、これらを自分たちの活動をもって好転させたいという想いがありました。つまり、これらの想いを言語化させたものが当時のVisionです。

講義の間に個人ワークとグループワークを挟み、受講者のみなさんにも身の回りで感じる課題や問題について話し合ってもらいました。話し合い後に森田さんからは

「現状に対して、もし何らかの問題や課題を感じているのであれば、その分野に関してのリーダーは恐らくあなた自身です。」

との言葉があり、自身で会社経営をしている受講者や、一般の会社員、学生スポーツのリーダーなど様々な受講者の方々が、それぞれに何か感じものがある様子でした。また、これらを考える上では『自分自身の喜びの源泉や、価値観』についての理解がとても重要になってくるというお話から、受講者がそれぞれの体験や考えを内省するワークも行われ、真剣に考えを巡らせる様子や、活発な意見交換が行われている様子が印象的でした。

2.Share

次に、Visionを共有することがなぜ重要なのか、というお話がありました。

森田さん「『ドラゴンクエスト3』という有名なゲームがありますが、私の知っている人で、ゲームのオープニングからエンディングまでを3時間以内で終わらせる人がいます。調べてみると、クリアにかかる平均タイムは約30時間、早い人で約20時間だそうですから、3時間以内でのクリアがいかにすごいことか分かります。一方で、短い時間でクリアすることを目指すのではなく、最強のキャラクターを作ったり、レアなアイテムを集めるなどの、所謂「やり込み」に情熱を燃やす人もいるようです。私はゲームについて全く詳しいわけでも、得意というわけでもありませんが(笑)恐らく前者は必要以上のレベル上げなどはせず、クリアに必要ないイベントもスルーし、最短距離でラスボスに向かっていくはずです。逆に後者は、レベルを上げてキャラクターを変化させ、アイテムを探して各ステージの隅から隅まで歩き回っているかもしれません。何を言いたいのかというと、同じゲームの「クリア」という事を見てみても、目指すゴールが違うと、その過程における取り組み方は全く違ってくるということです。チームの目標達成にあたっては、そこにズレが出てくることを避けたいので、そのために、VISION「どんな事を達成したいのか」、ストーリー「どのようなプロセス、階段を昇って達成するのか」、基準「プロセスにおける取り組みの基準」を共有することが重要だと思っています。」

 3.Process

組織の発展や進化について、生物の進化論を通して考えていきたいと思います。

生物の進化論には、ラマルクの「獲得形質の遺伝」とダーウィンの進化論「自然選択説」という代表的な説があるようです。

ラマルク「個体が努力によって後天的に獲得した形質や能力が、遺伝子を通じて子孫に継がれ、進化していった。」

ダーウィン「同じ生物種による生存競争が起きる中で、その時々の自然環境において、元々の個体差(突然変異なども含めて)により先天的に有利な性質を持った個体の子孫が残っていく事により、環境に適応した進化が起こっていった。」

森田さん「現時点では、生物の進化論においてはダーウィンの説が定説とされているようです。ただ、組織がより良いものへと進化していく過程の考え方について、私はラマルクの考え方を大事にしたいと思っています。もちろん一人一人の個の集団が組織となる訳ですから、組織の文化を大きく変化させる為に「目指す組織文化に対する適切な性質を持つ人材」を注入していき、その中で目指す環境に適さない者が淘汰され、組織が変化していく。という考え方も、もちろん有りだとは思います。しかし、私はラマルクの考え方が好きなのです。

私が大学4年生の時、同級生と一緒に数ヶ月間話し合い『応援されるクラブとなり、三連覇を達成する。そして、10年後も20年後も魅力あるクラブであり続ける為の文化を残したい』という想いを共有して、練習や、日々の生活において取り組み方を良い物にしていこうと努力しました。恐らく私たちの時には、想いを同じ解像度で共感できている人数はまだ少なかったと思います。それでも何とか良い結果を得る事が出来、その結果がそれまでの取り組みを肯定し、次の学年では、チームを良くしようという想いに共感して、それを行動に移す選手の数は明らかに多くなっていました。それが翌年、また翌年と繋がっていき、今では私たちの頃の文化の話など恥ずかしくて出来ないほどになっています。まずは「組織を良くしたい」という高い基準を周囲に示すこと。 それを感じた後輩がその後、「自分も」という意識で基準を高く引き上げる これらの繰り返しで、永続的な組織の土台作りに繋がり、組織は良い物になっていくのだと思います。


講義終了後、参加者の方からは、

「内容はもちろん、説得力のある、心に響く森田さんのプレゼンテーション能力、伝える力に感銘を受けた。自分も、意見や想いを人に話す、伝える機会を増やしていきたい。」
「スポーツにおけるリーダーシップやマネジメントも、ビジネスに転用して考えられることが多々あると、勉強になった。」

という言葉をいただきました。

このような場を通じて、普段なかなか関わらないビジネスパーソンやアスリートの方が交流できるのは貴重な機会でした。またワークでは、時間がオーバーするほど皆さんが熱い話し合いを繰り広げている様子がみられました。いつもよりひとつ外の世界に触れて考えることが、思考や行動の幅を広げることに繋がると気づくことができた、そんな会になりました。

東芝BRAVE LUPUS 公式HP

東芝BRAVE LUPUS 試合日程

《ジャパンラグビートップリーグ カップ戦》

11月10日(土)11:30~ vs 豊田自動織機シャトルズ @町田市立野津田公園陸上競技場

11月18日(日)14:00~ vs トヨタ自動車ヴェルブリッジ @パロマ瑞穂ラグビー場

11月24日(土)14:00~ vs コカ・コーラレッドスパークス @ミクニワールドスタジアム北九州